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ID.4691
 
■投稿者:スイシン 
■投稿日:2017/02/19(日) 15:18
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さよならウィッチェルニー PROLOGUE
         
 わたしは知っている。エネルージュが燃やす炎の、燦々たる輝きを。
 わたしは知っている。アースリンが守る砂塵の、ほのかな温もりを。
 わたしは知っている。バルルーナの吹きすさぶ風の、彼方へ澄み渡る音を。
 わたしは知っている。アクエリーが愛した水の、たおやかに透き通る様を。

 わたしはきっと覚えてる。わたしが確かな時間を過ごした、あの世界のことを。
 わたしはずっと忘れない。みんなが生きた、ウィッチェルニーのことを。

 わたしは絶対、忘れない。





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 ほのかに熱を帯びた風が、少女の頬を撫ぜてゆきました。日本の夏であれば特段おかしなこともないのですが、少女の記憶にある夏風と違う部分がいくつかあります。いささか湿気に欠けるのと、どこかヒリつくような熱い感触があること。まるで風の中に、火の粉がチリチリと混じり込んでいるかのようです。風上で待ち構えているものの正体に察しがつくには、十分な情報。
 おおかた、またあの子たちが呪いをかけようと待ち構えているのでしょう。まったく懲りない上に芸が無い。内心で呆れながら、少女はさてどうしたものかと口元に手を添えます。
 ……今ならば、以前のようには。
 気持ちを整えるように深呼吸してから、少女は赤いとんがり帽子を被り直しました。それから、身に纏う紺のローブに縫い付けられたポケットに手を突っ込みます。
 内から取り出したるは、掌に乗るほどの大きさの、小さな赤い本。表紙には、中心に向かって渦を巻くような炎の紋章と共に、不思議な文字列が印されています。また本とはいえど、めくるべき頁は無く、ざらざらとした手触りも、どこか機械めいた無機質さを持ち合わせています。実際のところは、本型の機械、と呼ぶのが正しいでしょう。
 小さな本型の機械を握りしめ。意を決して少女が一歩踏み出した、次の瞬間のことです。
「へっへーん、隙アリー! オグフル・ルアエク・エネルージュ!
 飛び出して来たのは、案の定、里の子供たちでした。待ってまちたとばかりに呪文の詠唱。唱えたるは、カエルの呪文。子供たちの目の前の空中に赤い円形の魔法陣が形成されたかと思うと、ゆらり、と空気が揺れました。
 直後のこと。揺らいだ空気の向こう側、描かれた魔法陣のその中から、半透明の巨大なカエルが、大筒で撃ち出されたかのように勢いよく飛び出して来るではありませんか!
 奇想天外な光景に、少女の口元が動きました。なんという。なんという……。
 ――なんという、予想通りの展開!
 少女の口角が吊り上げられたのは、先の展開を読み切っていたから……そして、反撃の準備がばっちり整っていたからに他なりません。彼らが飛び出すより前に、とうに少女は掌の赤い本型の機械を眼前へと突き出していました。なれば、後はこちらも唱えるのみ。
テタ・テタ・ルディエシュ・アースリン!
 少女を中心として黄色の砂埃が渦巻き、やがて手中の小さな本へと吸い込まれるように集束してゆきます。するとどうでしょう、真紅に染められていた本型の機械が、アッという間に砂舞う大地を思わせる金茶色へと変化してゆくではありませんか! 同時に、表紙がひとりでに開き、内側に埋め込まれた画面らしき部分から、眩い光が放たれました。
 巨大な透明蛙が少女に激突する刹那……光の中から、少女をすっぽりその影に覆い隠すほどに大きな盾が出現し、飛んできた蛙を通せんぼうしてみせるではありませんか! ほんの数秒もすると、透明な蛙は次第に薄らぎ、揺らぎ、やがてその姿を完全に大気へと溶かしてゆきました。
「……さあて、と」
 同じように消滅してゆく盾の向こうを真っ直ぐ見据えていれば、自然、あの蛙を飛ばしてきた子供たちと目が合います。奇襲に失敗して、冷や汗を垂らし、無防備な様子。やられたままではいられないし、また、この好機を逃す少女でもありませんでした。
 小さな本型の機械を握りしめた手を突き出し、その手を包み込むように左手を添え……真っ直ぐ相手を見据え、大きく息を吸い込んで。
「……エドルセク・イニブアク・エネルージュ!
 一語一句、丁寧に呪文を発すると同時に、握りしめた本型の機械から再び光が発せられます。けれど、先程と様子が違うのは、今度は砂埃の代わりに赤い火の粉がチリチリと舞い踊っていること。一瞬の後、それらがやはり本へと集束してゆき……金茶色に染まっていた本は、こんどは光を放ちながら、燃えるような赤へとその色を変えていったのです!
 本型の機械全体の色が変じ終わるや否や、少女の眼前の空中に、不可思議な文字列の描かれた、赤い円形の陣が展開されてゆきます。空気中にそのままペンで線を引いてみせたような陣の向こうには、慌てて逃げ去ろうとする悪戯小僧ら双方の背中が見えます。けれど。
「……時既に遅し!」
 少女が発した言葉に応えるかのように、陣の中心から赤い光が発生。光は流動するように陣全体を眩く染め上げてゆき……陣全体に光が行き渡った刹那。それらが一気に中心へと集束……溜め込んだ力を解き放つかのように、真紅の光線となって、悪戯小僧たちの背に襲いかかります!
「う、うわああッ!」
 光の弾丸の直撃を受け、響き渡る悪戯小僧ら二人ぶんの悲鳴。着弾から間髪を置かず、悪戯ことうたちを包みこむように、分厚い白煙がもうもうと立ちこめてゆきます。
 程なくして白煙が晴れれば……そこには、大きな空き瓶の中で虜囚となった、ふたりの悪戯小僧の姿がありました。
「や、ヤラレタ……」
 白旗の代わりか、悪戯小僧たちが降参の言葉といっしょに、けほ、と煙を吐き出しました。
 うまいこと巨大な空き瓶の中に彼らを閉じ込めることに成功した少女は、してやったり、と得意げに鼻を鳴らし……しかして、全身から力が抜け切ったかのように、その場に膝から崩れ落ちてしまいました。
「だ、ダメだ……流石に、一気に二つも唱えるのは、こたえる……」
 ぜえ、はあ、と肩で息をしながら、一気に去来した疲れに少女の声も嗄れ気味です。向こう数分は、立ち上がることもままならなそう。勝利の余韻に浸る余裕もない己の非力さに、少女は内心でぎりりと歯噛みしました。くらくら揺れる視界が落ち着くまで荒い呼吸を繰り返してゆきます。
 斯くなる調子で、心身の疲れによってただでさえ悔しい思いをしていたところ。
「お見事、お見事」
 と、追っ付け後方から軽い調子の声と共に、ぱちぱちと緩やかな拍手の音が聞こえてくると、少女の顔はさらに苦虫を噛み潰したような有様に変じてゆきました。
「……と言いたいところだけど。相変わらず無闇に派手な魔法だね、ミナ。効果は僕らのものと変わらないっていうのに。針小棒大もいいところだ」
 流れるように嫌味を織り交ぜながら話しかけてきた声の主。顔を見なくたって、ミナには誰だかわかります。こんなにも人の面を膨れさせてくる相手が、二人もいては、たまったものではありませんから。
「二言目にはイジワル言うのやめてよ、師匠。あたしがみんなみたいにはいかないの、わかってるくせに」
 ゆっくりと振り返ると、案の定、そこにはいつもの濃紺のとんばり帽子にマントで身を包んだ……いかにも魔法使い然とした格好をした、「師匠」の姿がありました。
 右手に握られた、先端にぎざぎざの太陽を模した飾りがあしらわれた杖を得意げに掲げてみせてから、威厳たっぷりに胸を張り、師匠はカツカツと杖先で地面を叩いてみせます。
「師匠。うーん、まったくもって素晴らしい響きだ。もっと呼んでくれたまえよ、ミナ」
「……もっとも何も、他の呼び方じゃ返事しないクセに」
「当然だろう。師匠と弟子、そこんところのケジメは厳しくいきたい性分なんだ、僕」
 師匠と呼ばれた濃紺帽子の持ち主は、わざとらしく肩をすくめてみせます。
 いつもがいつもこんな調子なので、少女としても慣れてきてはいるのですが、それでもまあ、頬の一つも膨らましたくはなるものでして。
「いちいち人をおちょくったり、二言目には嫌味を言う厳しさなんて、いらないんだけど」
 ようやく立ち上がれる程度には体力が回復してきたので、スカートの汚れを軽く払いながら、少女がぶうたれます。
「弟子の成長を願うのも師匠の役目だ。わかるかい、僕は君に期待しているんだよ、ミナ……厳しい態度もその表れさ。つまり愛情だ!」
「……毎日のように本棚やら資料やらをしっちゃかめっちゃかにして、整理を全部弟子に押し付けるのも愛情?」
「おや、わかっているならどうして今日はまだ整理を済ませていないんだい」
「片した先から師匠が散らかすからでしょ! 賽の河原も同じだよ!」
「でも僕に言わせれば、紙束とかってのはバラバラぐちゃぐちゃにしてこそのものだと思うんだ。破壊の美学というのもあるだろう」
「……捻くれた価値観を封印する魔法ってなかったっけ?」
「覚えがないが、弟子の頼みだ。どれ、魔法に頼らずとも、僕がその歪んだ誰かさんに一発いいのをくれてやろうじゃないか」
「鏡を見ようよ、師匠……」
「ミナも知ってるでしょ。ぼくは鏡というやつは好かないんだ。うちに鏡はないよ」
「ああそうでしたとも、お陰で毎日髪のセットのために徒歩五分! 嫌んなるよ!」
 しかし何を言っても、のらりくらり、けらけらと悪戯っぽい笑みを浮かべたままにかわされるばかり。ミナと呼ばれたこの少女は、来る日も来る日も、「師匠」に振り回されっぱなし。イタズラ好きのエネルージュ族の長を務めるだけあってか、ミナを小突き回すことにおいては他の追随を許しません。
 ……エネルージュ族とは何か、ですって? これは失礼。説明がちっとも足りていなかったみたいです。さてはて、どこまで遡り、どこからお話をしたものでしょう。
 そうですね。まず少女ミナ。果たして彼女は、皆々様がた多くが頭の中に浮かべたのと大きくは相違ないであろう、年頃の少女の容貌をしております。
 140センチ程の身長は、14という年齢にしてはいささか小柄でしょうか。肌はいささか白みが強いようです。切れ長の瞳は三白眼の気があり、茶色がかった黒の虹彩がきりりと前方を見据えます。すうっと通った鼻梁を下へ下へとなぞってゆきましょう。一文字に結んだ桜色の薄い唇に行き当たりますれば、ひとまず離れて見るがよろしい。それ御覧のとおり、愛らしいよりは凛々しいと言うにふさわしい、しっかりとした顔立ちがあります。肩の少し下あたりまで届く黒髪を、三つ編みのおさげに纏めて、左肩に流すのがお決まりの髪型。つぎはぎだらけの赤いローブの袖はぶかぶかで、とんがり帽子にとんがり靴を装備して、どこか師匠に似たシルエット。ミナとはつまり、斯くなる少女。
「まったくもって可愛げのない目つきをした弟子だよねえ。睨まれるとけっこう怖いから、やめて欲しいんだけどな」
「人のコンプレックスにずけずけ踏み込んでくる師匠なんて、いくらでも睨んでやりますよーだ」
 べー、と舌を出してみせる当のミナはというと、人よりきつめと言える目つきを、少々気にしている様子。
 ところが本題はここから。シルエットこそ似通えど、今も杖の具合を色んな角度から確かめているこのお師匠さまは、ずいぶんミナとは異なる姿をしておりまして。……えっ、口ぶりからして男なんだから、少女と見た目が違うのは当たり前だろうって? いやいや、理由をそうと決めるにはお気が早い。
 黄色いつなぎの服の上に纏うは紺色のマント。魔法使いのシンボルとばかりに頭頂にそびえるとんがり帽子は、やはりマントと同じ紺。前面に大きくあしらわれた髑髏のシンボルが映えます。茶色をした髪の毛は男性のものとしてはずいぶん長めで、帽子の下から垣間見えるキリッとした瞳も相まって、なかなかハンサムな印象を受けるかもしれません。ただ、ええ、問題はそこではないのです。
 ハンサムであるとか男だとか女だとか以前に、ミナと「師匠」を隔てる分水嶺として、肌の色があります。古今東西、肌の白いのと黒いの、たまにやや黄色いのとで相争ってきたのが人間というのですが……さてはて、青白い肌には如何なる反応を示したものでしょう。しかもローブの下に垣間見える大口は、口避け女のように頭の半周ほどもあって。更にはブードゥー人形みたいに、あちこち糸で縫い付けられている始末。
 ここまで言えばきっと、ご明察のこと。然り、然り。このお師匠さま、断じて、人間というやつじゃあないのです。
「ミナもまだまだウィッチェルニーに馴染めてないね。未熟者の弟子を導くもまた、マスターの役目だ。ああ、ヤレヤレ」
「ここまでやられてソッチが肩をすくめるとか、本っ当釈然としない……」
 ではでは、どうして人間じゃあないお師匠と人間のミナが一緒に? いつから地球はバケモノの巣窟に? 慌てなさるな皆々様がた、これにもきちんと理由あり。
 単純明快。ここは決して、地球じゃありませんから。むしろ人間のミナこそが異端であるとすら言えてしまうのです。
 だってあなた。実のところ、さっきの子供たちだって、地球じゃぜったい見かけられない奇妙奇天烈な姿だったんですから!
「ミナは真面目だよねぇ。ニンゲン族なんかじゃなくて、ホントはアクエリー族なんじゃないの?」
「ニンゲン族って何よ……あたしをそこに分類しないでってば」
 空き瓶から脱出して早々にミナをからかいにかかる子供の片割れ。こちらは、宙を浮く小さな火の玉にそのまま愛嬌のある顔を書き込み、手だけを生やしたような格好。
「でも、ミナもずいぶん成長しちゃったなー。もうオイラ達より色んな魔法が使えるじゃんかー」
「誰のせいだと思ってんの……。こちとら乙女の尊厳がかかってんのよ」
「オトメノソンゲンってなんだー?」
「体重が増えたりトイレが近くなったりする呪いで爆ぜ散る、かけがえのないもののことよ」
「ミナの言うコトはたまにすっげー難しいなー!」
 前者より大きな背格好をしたもう片方はといえば、燭台のついたロウソクに、やはりつぶらな瞳と大きな口に両腕、これらセットを付け加えた姿。
 そういうわけで、子供たちに至っては双方、人の形すらしておりません。誰も彼も、モンスターと表現するのがいちばんお似合いの有様。
 織り成されますは、こうも不可思議なイキモノたちの住まう世界のお話。

 エネルージュ族。それは世界に住まう四つの種族がいち……イタズラ用の《呪い呪文》に長けた、イタズラ者たちの集まり。
 ウィッチェルニー。それがこの世界のお名前。魔法とお菓子とイタズラと、お月様が支配する、「ウィッチ」たちの暮らす世界。
 それでは皆様、いくらかばかりかご清聴。




 これから紐解くのは、少女が迷い込んだふしぎな世界の物語。
 これから語るのは、少女と「かれら」の出会いの物語。
 あるいは、少女と「かれら」の別れの物語。
 そして。



 これから唱うのは、ひとつの世界の、終わりの物語。













さよなら

ウィッチェルニー

From DiGiMON & Magical Witches







Beware of magic spells!


スレッド記事表示 No.4691 さよならウィッチェルニー PROLOGUEスイシン2017/02/19(日) 15:18
       No.4692 ごあいさつと、言い訳にまつわるいくつかの呪文スイシン2017/02/19(日) 15:20
       No.4720 名前も声も知らないあいつらが待ってるはず夏P(ナッピー)2017/05/11(木) 01:02