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第1話 >>4594
第2話 >>4636
「ここもダメか・・・」
パソコンの画面に表示された文面を前に、猪口は小さくため息をつきマウスカーソルを上に移動した。それからURLバーをクリックすると、別の文字列を打ち込んだ。そして表示されたページの中央部におかれた入力バーに該当するURLを次々と打ち込むが、すべて同じ結果が表示されるだけであった。
猪口とワーガルルモンが別行動を取ってから1週間が経過しようとしていた。その間、猪口は独自の調査のほかにワーガルルモンとの連絡を試みたが、彼は一向に応じることはなかった。これほど長期にわたって連絡を途絶えさせることは今までなかったため、猪口は最悪の事態を予感していた。
彼が無事であればいいが・・・
猪口が顔を俯かせて首を左右に振った。その時、画面の右端に電話の受話器のアイコンが表示された。発信者のアドレスと名前を目にして、彼はすぐにアイコンをクリックする。画面中央に別のウィンドウが表示され、しばらくしてからワーガルルモンの姿が表示された。彼の顔が映し出さると、猪口は挨拶の代わりに驚きの声を上げた。
「ワーガルルモン!?どうしたんだその顔・・・」
画面に表示されたワーガルルモンの頭部には包帯が巻かれ、見るからに問題が起こったことを表すものであった。狼狽する猪口に、ワーガルルモンはばつが悪そうに視線をちらちらと外す仕草をしながら口を開いた。
『まぁ、ちょっとへまをしちまって。面倒事に巻き込まれたんだ』
「そ、そうか。・・・そのケガは大丈夫なのか?」
『ああ、俺みたいなデータの塊は修復パッチ当てて静かにしてれば元通りになるからな。心配はいらない。・・・ただ今回ばかりは、暫くじっとしてなきゃならなかったが』
気まずそうに話すワーガルルモンを見て、とりあえず大丈夫そうであることに猪口は安堵の息をつく。それから再び冷静な顔に戻り本題に入った。
「ところでワーガルルモン、なにか情報は見つかったのか?すこしでもいんだ」
『ないわけじゃない。まず削除されたアカウントのデータだが、見つからなかった。ゴミ漁りもしたが、1マイクロほども無かったんだ』
「なかった?どういうことだ」
『・・・これは俺の推測だが、誰かがデータのスクラップの溜まり場に侵入して残骸を全て取っ払ったんだと思う。それに“ある人物”から聞かされた話じゃ、最近あの空間に頻繁に忍び込んでいる輩がいるらしいからな』
「それは君のことじゃないのかい?」
『そいつからもそう疑われたけど、俺はあの空間にはここ3か月以上邪魔したことはない。少なくとも、俺はこの件に関してはシロだってことさ』
自信満々に語るワーガルルモンを、猪口は半ば疑った視線で見つめた。
『なんだ、その顔』
「いや・・・確かに最近インターネットから削除されたデータを持ってくるようには頼んでなかったし、本当のことだと思うよ」
猪口の言葉に、ワーガルルモンは深いため息をついた。
『チッ、どいつもこいつも疑り深い奴ばかりだ』
ワーガルルモンは視線を猪口から外し、別ウィンドウに表示された猪口のパソコンのディスプレイ画面を見た。そこには、とある有名なウェブアーカイブサイトが表示されていた。そこの検索バーに猪口は先ほどから様々なURLを打ち込んでいた。だが、結果全て同じものであり、その都度猪口は残念そうに顔をしかめていた。
『何してるんだよ?』
ワーガルルモンが訊くと、猪口は机の上に置いてあった一枚の紙を彼に見せるように前に出した。そこには様々な人名と、それぞれ異なったURLが手書きで記されていた。
「この1周間、僕は失踪者と友好的な間柄だった人たちと接触して情報を聞き出してきた。集まった断片的な情報を観察すると、失踪者全員にある共通点があることが分かったんだ」
『共通点?』
「失踪者全員が、過去にインターネット上でホームページを作成していたり、交流サイトでアカウントを持っていたんだ。それも、長い間消さずに放置してしまっているということも共通しているんだ」
『そんなの偶然じゃないのか?インターネット上でホームページやってた人間なんてごまんといるだろうし』
「いや、そうとは限れない。今のところ、ホームページを運営していた時も放置しだした時も少なくとも10年以上前の事だった。それに、今までの失踪者の全員がこの条件に当てはまることも偶然で済まされないんじゃないかな」
ワーガルルモンに語る猪口の目はいつもよりも自信にあふれている様に見えた。その様子にワーガルルモンは彼の言うことを信じるほうが吉であることを察した。
『なるほど・・・それでさっきから、色んなURLを打ち込んでいたってわけか。それで、何か収穫はあったのか?』
「それが全然なんだ。片っ端からアーカイブサイトを回ってはいるんだけど、どこにも残っていないらしい」
『・・・SNSアカウントと同じ状況だな』
訝しむようにワーガルルモンはつぶやいた。猪口も黙って頷いた。
その後も、猪口は様々なウェブアーカイブサイトで各URLを検索していたのだが、遂に彼は両手を上げて身を後ろに反らせた。
「もうこれで最後だ。結局、一つも見つからなかったよ」
猪口は髪の毛を掻き毟った。ワーガルルモンは顎に手を当てて考え事をしていた。
『アカウントも過去のホームページもその痕跡が消されている。こりゃ、どう考えても・・・』
「偶然じゃない」
『そういうことだな』
とその時、猪口のスマートフォンから着信の音楽が鳴り始めた。猪口が出ると、何か言う前に相手がいきなりまくし立ててきた。
「おい、猪口!とんでもないことになったぞ!」
相手は戸塚だった。彼の只事ではない様子に猪口は挨拶をすることも忘れてしまい聞き返していた。
「せ、先輩、どうしたんですか?何かあったんですか?」
「何かあったなんてもんじゃない、また新しい失踪者が出たんだ。それも、前の失踪者の知り合いだ」
戸塚の言葉に、猪口は目を開かせた。驚きを隠せられていない猪口を、ワーガルルモンは眉をひそめて見つめていた。
「し、失踪者の知り合いって、まさか・・・」
「お前の聞き込み先にもいただろうが、今度の失踪者は新木信宏。昨日の夜まで自宅にいたらしいが、妻の話によると起きた時には家から居なくなっていたらしい」
猪口はスマートフォンを耳に当てて戸塚の話に耳を傾けながら、画面の中のワーガルルモンに向けて右手の指先を回すように動かした。そのジェスチャーが『準備をするように』という意味であるとワーガルルモンはすぐに察した。
「猪口、新木に会った時に何か不自然な部分は見られなかったか?」
戸塚に聞かれ猪口は数日前の彼の様子を思い返した。しかし彼の目には新木の様子に不自然な点は見られなかったことしか思い出せなかった。
「いいえ、至って普通の様子でした。終始、こちらが聞き出したこと以外の隠し事をしている人間の反応ではなかったですし・・・」
猪口は戸塚に答えながら、片手でマウスを動かしSNSサイトにアクセスする。そして取材時に手に入れていた新木のアカウントに繋げ、最近のチャットのやり取りを確認しようとした。しかし、彼のアカウント先のリンクが切れている旨の表示がなされると、心の中で舌打ちをした。
「・・・分かりました。私はこれから新木さんの行方を追います。何か新しい情報がありましたら今まで通り互いに伝えるようにしましょう」
「ああ。無理はするなよ。じゃあな」
そう告げると戸塚は返事もそこそこに電話を切ってしまった。どうやら『トーブウィーク』の編集部もこの非常事態に慌ただしくなっているようである。
猪口が電話を終えるころには、すでにワーガルルモンはパソコンの画面の中から消えていた。彼がすでに自身の考えを察していることを経験上から分かっていた猪口は、冷静にパソコンに向かって話し始めた。
「ワーガルルモン、既に分かっているだろうけど、すぐに“情報のごみ山”へと向かってくれ。もし、僕たちの推測が正しければ、この事件の真相にたどり着ける最大のチャンスを迎えているはずだ」
インターネット空間へと飛び込んだワーガルルモンは、以前とは別の空間に降り立った。そして同じ方法でのアクセスを試みたが、警告文と共にアクセスは拒否された。恐らく先の騒動以降、サイトの運営者か陰の管理人 -大概はデジモンである- のどちらかが対策を実施したのだろう、とワーガルルモンは想像していた。しかしこれは彼にとっても想定範囲内の事でもあり、特に慌てることもなかった。
「さすがに無能の管理人も防御策を仕掛けてはいるか・・・だが、これでどうだ?」
ワーガルルモンは素早くウィンドウ内にコマンドを打ち込んでいく。様々な認証画面やパスワード画面などが表示されていくものの、行き詰まることなく関門を突破していく。別の方法での侵入を試みてから30秒もしないうちに、ついに最後のロックを解除した。
内心ほくそ微笑むながら、彼は目的地へのゲートが開く様子を眺めていた。が、データの塊が扉の形を形成したとき、突如として警告文が目の前に浮かび上がり動作が停止した。
これはワーガルルモン自身にも思いがけていない事態だった。彼は冷静に警告文を読み解く。文章によれば、何者かによる不正操作によって、ゲートの行き先が書き換えられているとのことであった。
「どういうことだ・・・?」
ワーガルルモンはすぐさま目的地のインターネット空間のアクセス履歴を表示する。すると、つい20分ほど前にアクセス許可が与えられているある人物が内部に入り込み、それ以降に異常事態が発生し続けているという状態のようだ。また、その最後に入った人物のアドレスや名義、あらゆるものが英数字や記号による滅茶苦茶な文字列であることから、この人物が怪しいとワーガルルモンはすぐに思い込んだ。
しかし何故、アクセス先までが変更されてしまっているのであろうか。そこまではワーガルルモンも理由を考え付けなかったが、もしかすると侵入者のミスで外部からのアクセス先アドレスが侵入元のアドレスに書き換えられているのではないかという予想が浮かび上がる。だとすれば、このアドレスに忍び込めば、事態の原因に接近できるかもしれない。
ワーガルルモンは長々と考えていたが、論理的な打開策がない以上このままでは埒が明かない事は明らかであった。彼は意を決して、目の前のゲートに足を踏み入れた。
ゲートに入った瞬間、まばゆい光りが彼を包み込んだ。ワーガルルモンは目を腕でふせぐ。しばらくして目を開けると、あの『ゴミ山』のインターネット空間とは異なる場所にいることを直ぐに察した。しかし、自分の居る正確な状況は分からなかった。なぜなら、周辺が暗闇に包まれていたからである。
ワーガルルモンは冷静にライトの明かりをつけ周辺の様子を確認する。どうやら地面はがれきのようなものが散乱しているが、目立ったオブジェクトも存在しない場所のようだった。まるで情報が極端に少ないウェブサイトページの内部のような光景だと、ワーガルルモンは頭の中で思っていた。
彼はあたりを警戒しつつ歩みを進めた。辺りからは物音ひとつせず、ワーガルルモンの足音のみが響いていた。
「ただの閉鎖サイトか・・・?」
ワーガルルモンは様子を訝しみながら呟いた。しかし、インターネットの機密情報を盗むような仕業をする人物の正体が、URLの設定を誤るという初歩的なミスを仕出かすような素人だとは到底思えないと、頭の中で疑問符を浮かばせた。
と、その時ライトが照らす先に何かがぶら下がっているような影が映った。ワーガルルモンは足音を忍ばせながら近くへと歩み寄った。
「なにっ!?」
ライトの光りが影の正体をはっきりと照らしたとき、ワーガルルモンは思わず声を上げた。その場にぶら下がっていたのは、まぎれもなく新木信宏その人だったのである。彼は両手首に鎖を巻かれ、地面から彼の背の丈ほどの高さに吊るされていた。
ワーガルルモンは慌てて新木の近くまで駆け寄り、彼の体を揺すった。だが彼の目は開くことなく、顔色からは生気が消え去っているように見えた。
ワーガルルモンは新木が吊るされている鎖を両手で握りしめ、力を込めて引っ張った。鎖はギチギチという金属音を鳴らしながら、やがてワーガルルモンが掴んでいるすぐ上の部分が引きちぎられた。新木の身体は重力にしたがって落下するが、すぐさまワーガルルモンは彼の身体を受け止めた。
「おい、大丈夫か!?」
ワーガルルモンは彼に声をかけるが、新木は依然として反応がなかった。だが手首に指をあてると確かな脈動が感じられたため、ワーガルルモンは小さく安堵の息を吐く。
「動くな!」
突然の呼び声に、力が抜けていたワーガルルモンの身体は反射的に力ませた。そして素早く体を振り返らせ、声の主を捉えようとした。
「また貴様か・・・」
そこに立っていたのは、以前ワーガルルモンと対峙したストライクドラモンであった。標的に向けられる鋭いハンターの視線を直に受けながら、ワーガルルモンはため息をついた。
「貴様の腕の中にいる人間は誰だ?」
ストライクドラモンはワーガルルモンが抱きかかえている新木に気が付き、厳つい表情 ―とはいえ、口と顎しか把握できないが― はそのままに訪ねてきた。ワーガルルモンは部外者に目的の全容を明かす気はなかったものの、これ以上の面倒ごとを避けるために断片的でもあえて明かす考えに至った。
「俺が探していた失踪者の関係者だ。さきほど失踪の情報を受け、行方を追って見つけたところだ」
ストライクドラモンはじっと、ワーガルルモンの顔を見つめていた。一向に変化しない表情に、ワーガルルモンの表情も自然と強張らせていた。
「・・・貴様の言うことが本当かどうかは、私一人が判断できることではない」
沈黙を破ったのはストライクドラモンであった。
「だが、人間たちがこの世界に連れ込まれていることは事実のようだな」
そういうと彼は視線をワーガルルモンから外し、あたりを見渡すような仕草をした。逃亡するかもしれない人物からわざと目を離すという不自然な行為にワーガルルモンは彼の意図を読み取った。
「辺りを見てみろ」
今度は言葉で促されたワーガルルモンは、彼の言う通りに視線を上に向け、片手で胸元のライトの方向をずらした。彼はそこで初めて、自分たちの頭上に多くの人間たちがミノムシのように上から吊るされている事実を目の当たりにした。異様な光景に、ワーガルルモンは声を上げることも忘れただただ茫然と見上げていた。
「・・・その様子では、事情を知らなかったと見れる」
ストライクドラモンの呼びかけに、ワーガルルモンは我に返って視線を彼に向け直した。
「やはりあれは貴様の仕業ではないようだな、ワーガルルモン」
ストライクドラモンのその言葉に、ワーガルルモンは彼が自分を見逃すという期待を密かに沸かせた。しかし、ストライクドラモンの視線は緩む気配がなく、すぐに期待が裏切られる事を察する。
「だが、ウェブサイトへの不法侵入の事実は消えていない。人間たちは我々ネットワーク管理義勇機構が保護し、現実世界に送還する」
そう言うと、ストライクドラモンは両手を一層力強く握りしめ、姿勢を僅かに低くとった。
「おいおい、マジかよ・・・」
どこまでもしつこいデジモンだと、ワーガルルモンは大きくため息をついた。新木を抱きかかえたままではまともに戦うこともできず、また、以前のような幸運に恵まれない限りは逃げ切ることも不可能とすぐに考え付いたからだった。
ワーガルルモンはじりじりと迫ってくるストライクドラモンから逃げるように、ゆっくりと後ずさった。
「ん?どうした」
突然、ストライクドラモンが言葉を発し、ワーガルルモンに詰め寄る足を止めた。
ストライクドラモンが右手をその頭の上部全体に被さる兜の側面に手を当て、黙って耳を傾けている様子に、誰かからの通信を聞いているとワーガルルモンは考えていた。じっと佇む彼の口元は、段々と難しい様相に変化していることを物語っていた。
「・・・了解した。以後も状況打開に当たれ」
そう告げ、ストライクドラモンは右手を頭から離した。彼の様子に注意を払いながら、ワーガルルモンは口を開いた。
「何かあったのか?俺たちにも関係があることなんだろう?」
ストライクドラモンはワーガルルモンの問いに、小さなため息をつきながらもうなづいて見せた。
「残念だが、そうだ。私の部下によれば、この空間が外部から遮断されたようだ」
彼の言葉に、ワーガルルモンは目を見開いた。すぐさまストライクドラモンの目の前であることを構わず不正プログラムを出現させ、外部ネットワークへのアクセスコードを打ち込む。だが、すぐさまその命令を拒否する表示が目の前に映し出された。
ワーガルルモンはストライクドラモンに顔を向けた。彼の困惑した表情を見て、ストライクドラモンは心の内を察した。
「貴様の仕業でもないようだな」
「当たり前だ、自分から怪しい場所に籠るやつが何処にいる」
ストライクドラモンの機械的な問いかけがあっけからんとした様に見えたワーガルルモンは腹立たしいように応じた。続けて憎まれ口を叩こうとしたが、すぐさま異変を感じ取り新木を抱えたままその場から素早く走り去る。ストライクドラモンもまた、強靭な脚力によって少し遅れながらもワーガルルモンに続いた。
直後に、二人のいる場所に向かって銃弾が雨のように降り注いだ。弾丸を打ち込まれた地面の破片がワーガルルモン達の元へと飛び散った。
「くそっ!誰だ!?」
互いに離れた場所に着地したワーガルルモンとストライクドラモンは、巻き上がる粉塵の上空に目を向けた。灰色の煙の中に、何者かの影がライトに照らされた。それは巨大な耳を持ち、両手に彼自身の腕周りよりも太いガトリング砲を装着するデジモンであった。デジモンは片方のガトリング砲の先から覗かせる3本の指で上空から垂れ下がった鎖につかまったまま、静かにワーガルルモンとストライクドラモンを見下ろしていた。
二人が警戒の視線を向ける中、デジモンは鎖に絡ませていた指を離し、地面へと着地した。ワーガルルモンは目の前のデジモンが、ガルゴモンと呼称される種族であることを把握していた。
「お前ら、一体誰だ!?」
ガルゴモンは荒らげた声で二人に言い放った。ストライクドラモンは両拳に炎を灯らせつつ、落ち着いた口調でガルゴモンに話し掛けた。
「私はストライクドラモン、ネットワーク管理義勇機構の者だ。ここのウェブサイトに不正が見られたため、ネットワーク管理条項第12項により・・・」
「ここは僕とノブヒロだけの空間だ!」
ストライクドラモンの言葉をガルゴモンの咆哮が遮った。ワーガルルモンはガルゴモンの言葉の中の『ノブヒロ』の単語に引っ掛かったが、ガルゴモンにその点について尋ねることを彼自身の怒り狂った様子の前には諦めざるを得なかった。
「僕たちはようやく一緒になれた!僕はここでずっとノブヒロと暮らす!それを邪魔する奴は許さない!」
歯ぎしりをさせ、敵意をむき出しにした目を向けた。説得は不可能と判断したストライクドラモンが戦闘態勢をとった直後、ガルゴモンは二人に向かって突進を仕掛けた。咄嗟に2体はそれぞれ別々の方向へと跳びあがりガルゴモンの攻撃を回避した。
「抵抗するな!」
ストライクドラモンは攻撃に失敗したガルゴモンに照準を合わせ、一旦地面に着地するとすぐさま地面を蹴りだした。
「ストライククロー!」
ガルゴモンの頭上から鋭利な爪を振り下ろした。しかし、ガルゴモンは右腕のガトリング砲を振り上げストライクドラモンの爪を受け止めた。激しい火花が金属音と共に散るが、ガルゴモンはストライクドラモンの攻撃を受けきった。
「くっ!」
ストライクドラモンが動揺した隙にガルゴモンは左手のガトリング砲でストライクドラモンの腹部を殴りつけた。彼自身が予想だにしていなかった反撃に、思わずひるんでしまい後退する。
ガルゴモンは間髪入れずにストライクドラモンに右手のガトリング砲を向けた。直後に無数の弾丸がストライクドラモンに襲い掛かった。彼は咄嗟に両腕を前に出し弾丸を防ごうとするが、弾幕によって防御の態勢は崩されてしまう。
「ぐわあああ!」
ガルゴモンの銃撃をモロに受けてしまい、ストライクドラモンは地面に仰向けで倒された。ストライクドラモンが地面に倒れたことを確認したガルゴモンは、振り返って戦いの様子を眺めていたワーガルルモンを睨み付けた。標的にされたことを察し慌てふためくワーガルルモンを見据え、ガルゴモンは地面を走り出した。
「ノブヒロを返せ!」
迫りくるガルゴモンに、ワーガルルモンは咄嗟に左腕のみ構えの姿勢を見せて相手の動きに応じた。ガルゴモンは助走をつけて地面を蹴りつけてワーガルルモンの目前まで跳びあがり、右腕のガトリング砲を振り上げた。
「これでもくらえ!」
ワーガルルモンは冷静にガルゴモンのパンチを構えていた左腕で当てた。凄まじい力の前にそのまま受け止めきることはできず、ただ横に流すことしかできなかった。パンチを流されたガルゴモンであったが、すぐさま身体を翻らせて地面に着地をして見せると、一瞬身を屈ませてすぐさま上空へと跳びあがった。
「チッ!」
ワーガルルモンは上半身を仰け反らせ、間一髪でガルゴモンのアッパー攻撃をかわした。アッパーを繰り出した直後のガルゴモンに反撃転じようと姿勢を正すが、ガルゴモンも身体を空中で回転しすぐさまワーガルルモンと面を合わせる形となった。
ガルゴモンの右腕のガトリング砲を振りおろそうとする体勢をワーガルルモンは見逃さなかった。すぐに反撃の姿勢を崩し、後ろへと退いた。
「逃がすか、このっ・・・!」
ガルゴモンは標的を逃がすまいとガトリング砲を距離を置いたワーガルルモンに向ける。甲高い起動音と共に銃身が回転をし始めるが、突如ガルゴモンの表情が面食らったように固まった。
「あっノブヒロが・・・」
その様子をワーガルルモンは明らかに狼狽していると確信していた。そしてそれは新木信宏に対してであるとも思われた。その理由を考察している間に、ガルゴモンは迷いを打ち消そうとしているかのように頭を左右に振った。そして再び鋭い目つきを見せると、ワーガルルモンに向かって走り出した。
迫りくるガルゴモンに、ワーガルルモンはこのまま新木を片腕に抱いたまま闘い続けることは得策ではないと結論付け、一旦その場から逃げる選択肢を取った。しかしガルゴモンは、その矮小な身体からは想像もできないほどの脚力によるものなのか、すぐさまワーガルルモンの背後まで追いついた。
「なんてヤローだ!稲妻か何かか!?」
振り向きながら片目でガルゴモンの姿を捉えながら、ワーガルルモンは思わず叫んだ。
逃げ切ることは不可能であることを悟った彼は、突然その足を止め、右脚を強く踏み込んだ。その勢いのまま姿勢を反対に向け、襲い掛かるガルゴモンと面を合わせた。突然の事にガルゴモンは目を丸くしつつ、勢いがついていたために足を止めることもできずにそのままワーガルルモンに向かって行った。
「えっ・・・!?」
「覚悟しろ、チビスプリンター!」
ワーガルルモンは不敵に笑って見せると、振り向きざまにあげていた左脚を回し蹴りの要領でガルゴモンに向けて蹴りだした。ワーガルルモンの左脚はガルゴモンの頭の左側を捉え、ガルゴモンは蹴られた衝撃によりそのまま飛ばされた。
「うわああ・・・!」
意識を一瞬失ったガルゴモンだったが、地面へと激突する寸前で取り戻すと、態勢を取り戻して両足で着地した。そして怒りに満ちた眼差しをワーガルルモンに向けた。
「このやろう・・・!ノブヒロを、ノブヒロをっ・・・!」
その姿にはもはや冷静さは消え失せており、完全に憤怒に支配された状態であった。ガルゴモンは有無を言わさずに再びワーガルルモンに飛びかかった。
「ノブヒロを返せ!」
ワーガルルモンはガルゴモンの姿をしっかりと捉え、彼との間合いに合わせてその場にしゃがみ込んだ!
「円月蹴り!」
ワーガルルモンの右脚はガルゴモンの腹部にクリーンヒットした。ガルゴモンは悲鳴をあげることもなく、力なく地面へと叩きつけられた。ワーガルルモンが立ち上がると同時に、ガルゴモンの身体は光に包まれ、やがて光が空へと消えていく中からテリアモンが現れた。その様子を見て、ワーガルルモンは安堵の吐息をし、腕の中で目を瞑る新木の安否を確認した。
「動くな、ワーガルルモン」
背後から右肩を左手で抑えながらストライクドラモンがゆっくりと向かっていた。彼はワーガルルモンの隣まで行くと、彼の目の前で大の字になって倒れているテリアモンを見た。
「あのデジモンはどうした」
「目の前にいるだろ。疲れて寝込んぢまったのさ」
ワーガルルモンは呆れたように答えた。ストライクドラモンはワーガルルモンを一瞥すると、テリアモンの傍へと歩み寄る。ストライクドラモンがテリアモンの胴体を両腕ごと両手でつかむと、彼はようやく目を覚ました。すぐさま相手に捕らわれつつあることを察し、身体を激しく動かそうと暴れ出した。ストライクドラモンはテリアモンの足掻きに手こずる様子もなくしっかりと彼の身体を抑えていた。
「この野郎!はなせっ!」
「だめだ。お前にはこの状況について洗いざらい話してもらうぞ」
テリアモンは必死に体をよじらせるがストライクドラモンの手から逃れることはできなかった。彼は目の前のワーガルルモンを見上げた。
「ノブヒロ!ノブヒロッ・・・!」
涙ながらに悲鳴に近い叫び声を発し続けるテリアモンをワーガルルモンは見下ろしていた。しばらくすると彼は歩き出し、テリアモンを掴んでいるストライクドラモンに話し掛けた。
「なあ、そいつと少しばかり話をしていいか?」
「なんだと?」
ストライクドラモンの是非を待つこともなく、ワーガルルモンはテリアモンに話しかけた。
「テリアモンだな?聞きたいんだがな、この男とお前は知り合いなのか?」
「そうだ!ノブヒロと僕はパートナーだ!」
ワーガルルモンは小脇に抱え直した新木の顔をテリアモンに見せながら尋ねた。テリアモンは未だ興奮した様子で彼の問いに答えた。ワーガルルモンは、テリアモンの言葉に首を傾げるが、質問を続けることにした。
「その関係はいつごろから始まったんだ?」
「・・・」
「なあ、どうなんだ」
ワーガルルモンはテリアモンの目の前まで顔を近づけ、質問に答えるように促した。ストライクドラモンは黙ったまま、二人の様子を見守っていた。
「・・・ノブヒロが僕たちの世界に関わりだした頃からだよ」
しばらくして、テリアモンは口を開いた。その表情は心ならず口を割ったというよりも思い出す事に対して苦しく感じているという表現が的確であるようにとワーガルルモンには感じて取れた。
「関わりだしたというのは、新木がホームページを開設した15年前か?」
ワーガルルモンのさらなる質問にテリアモンは思わず口が止まったが、首だけは縦に振り回答した。
「なるほど。しかし、お前と新木のホームページとの間に何の関係があるんだ」
「僕は・・・ノブヒロが開いたホームページの管理デジモンだったんだ。僕は彼のホームページから外部の攻撃を守る役割を背負っていたんだよ」
テリアモンの告白に、ワーガルルモンは頭の中で事実が合致していることを確認していた。15年前の当時であれば、デジモンたちが人間たちが創り出したインターネットの世界に影響を及ぼしだしていてもおかしくは無かったからである。
「ノブヒロがホームページを開いたあの日、落ちこぼれだった僕はようやく管理者に割り当てられたんだ。周りの同じサービス下の管理者からはよくバカにされたし、実際ミスも多かったけど、ノブヒロはそれでも僕のホームページを利用し続けてくれたんだ。ノブヒロと過ごした日々はとても楽しかったし、嬉しかった」
自らの思い出話を語るテリアモンは、かつてのエピソードに酔いしれて笑みをこぼしていたが、その目には次第に涙を溜めていった。
それまで沈黙を貫いていたストライクドラモンが、不意にテリアモンに話しかけた。
「しかし、人間側からは我々の活躍など知ることはできないはずだが・・・」
その言葉を聞いた直後、テリアモンは顔を振り向かせて横目でストライクドラモンの顔を睨みつけた。その眼光はまるで獲物を狙う猛獣のようであり、自分の膝丈ほどしかないデジモン相手であるのにもかかわらずストライクドラモンは心の中で怯んでしまっていた。
と、ストライクドラモンをじっと睨みつけていたテリアモンの目から一筋の涙が零れ落ちた。続いて二つ、三つと雫は垂れ落ちていく。
「そんなこと、僕にだって分かっていたよ・・・でも、嬉しかったんだ。嬉しいと思いたかったんだ。ノブヒロが僕の存在を知らなくても、彼が傍にいてくれるんだったら良かったんだ」
だから、と彼は声を詰まらせながら自らの訴えをつづけた。
「僕はもうノブヒロと離れ離れになりたくないんだ!今度こそ、僕とノブヒロは本当のパートナーになれるはずなんだ!お願いだ、お願いだ・・・」
テリアモンはその言葉の勢いを落としていきながら、遂にはうなだれていった。ストライクドラモンとワーガルルモンは彼の様子に言葉をなくし、ただ彼の咽び泣く声が小さくなるのを見てやることしかできなかった。
テリアモンの嗚咽が無くなり、力なくストライクドラモンに抱かれている時、ワーガルルモンが沈黙を破った。顔を上げたテリアモンの目を真っすぐに見つめた。
「・・・申し訳ないが、俺達にはお前の願いをかなえることはできない。人間とデジモンは、本来であれば関わり合うことは誰からも望まれてないんだ。無理に関係を気づこうとしてしまえば、この事件のような惨状になってしまうんだ。今だったら分かるな?」
そういうとワーガルルモンは体を少し横にずらして見上げた。顔を上げたテリアモンは、ワーガルルモンとストライクドラモンのライトに照らされた無数の人間たちの哀れな姿を黙ったまま見つめていた。
「テリアモン、教えてくれ。あの人間たちをあんな目に遭わした奴は誰なんだ?お前だけであれ程の数を吊るせる訳がないだろう?」
ストライクドラモンの質問に、テリアモンは口をつぐんだ。しかし、顔を歪ませ何かに葛藤していることは明白だった。ワーガルルモンは落ち着いた口調で言葉を発した。
「飾り物みたいに吊るされた新木を眺めたまま過ごすなんて、本当にお前が望んだ関係なのか?」
ワーガルルモンの言葉に、テリアモンの目には再び涙が浮かび上がった。それを振り払うようにテリアモンは首を左右に振った。それからワーガルルモンへと顔を向けると、閉ざしていた口をゆっくりと開けた。
「・・・僕以外のデジモンのことはわからない。・・・上の人たちも、僕が来た時には、もう・・・吊るされていた」
時折言葉を止めながら、テリアモンは話しを続ける。ワーガルルモンとストライクドラモンは固唾を呑んで今にも消え失せてしまいそうな彼の一語一句に耳を傾けていた。
「僕をここに連れてきたのもデジモンだった。そのデジモンは、僕に、自分が管理するホームページで暮らす代わりにノブヒロと引き合わせてくれると言ってきたんだ。僕は当然受け入れて、ノブヒロをこのインターネットの世界に連れてきたんだ」
ワーガルルモンはストライクドラモンと顔を合わせた。それからもう一度テリアモンを見て、こう尋ねた。
「そのデジモンは一体誰だ?」
「・・・見たこともなかったデジモンだった。名前も教えてくれなかった。灰色のマントみたいなのに包って、大きな鎌を持っていたことは覚えているんだけど・・・」
テリアモンの証言からワーガルルモンは合致する特徴を持つデジモンを思い返していた。その時だった。
「大きな鎌・・・まさか」
ストライクドラモンが漏らした小声をワーガルルモンは聞き漏らさなかった。
「心当たりがあるのか?」
「ああ。テリアモンとやら、お前の言うデジモンはこのような見た目ではなかったか?」
ストライクドラモンはテリアモンをつかんでいた両手のうち右手を話し、手首に装着した機器からホログラム映像を映し出した。立体的に映し出されたデジモンの姿は、先ほどテリアモンが証言した特徴を捉えていた。
見せられたホログラムを前に、テリアモンは思わず声を上げていた。
「そうだ、このデジモンだ!」
ようやく黒幕が分かったとワーガルルモンは思わずほくそ微笑む。しかし、ストライクドラモンは反して歪んだ口元を見せていた。それは決して喜びからではなくむしろ逆の意味を込められていることは誰の目から見ても明らかだった。
「一体どうした、犯人が分かったんだぜ」
「急に嫌な予感がしだした。まさかこいつが関わっていただなんて」
ストライクドラモンはそう答える。その反応にワーガルルモンも事態に訝しむ。
「一体何者なんだ、コイツは?」
「・・・我々ネットワーク管理義勇機構が以前より追っていた重罪人だ。正直、私一人では取り押さえることができるかどうかさえ危うい」
自信なさげに言うストライクドラモンに、ワーガルルモンは初めて会った際の彼の様子との落差に、対象となっているデジモンの脅威の程をうかがい知ることができた。
ストライクドラモンは大きなため息をつくと、再びいつもの鋭い視線に戻した。
「ここは一旦、貴様たちだけでも連れてこの場から脱出する。後日、私のメンバーとともにここに踏み込むことにしよう」
「そんなこと許さんぜ」
ストライクドラモンの言葉を遮るように横から言葉が投げられた。彼はワーガルルモンとテリアモン、そして新木を交互に見るが、依然気を失ったままの新木以外の2体のデジモンもとぼけた顔をしていた。
「・・・さっきの横やりは?」
「俺は知らん」
二人は小さくうなづくと、素早く互いに背中合わせとなって周囲にライトを向けた。
「憎らしいほどに息が合っちまったな」
「黙って見張れ」
自分たちの行動の素早さに、周囲の様子を探りながらワーガルルモンは心底感心していた。
「おいおい、上にも目を向けたらどうだ」
再び聞こえた謎の声に、二人して声がした方向へとライトを向けた。照らされた先に、亡霊のようなシルエットが浮かび上がっていた。
「お前は・・・」
ストライクドラモンが呟いた直後、周辺の空間が日が射したかのように一気に明るくなり、同時に照らされていたデジモンの姿が明らかとなった。巨大な鎌を持ち襤褸切れのようなマントに包ったその姿は先ほどのデジモンそのものであった。
「ファントモン!」
ストライクドラモンがとっさにその名を叫んだ。ファントモンは二人を見下ろしながら不気味に笑っているが、その声に感情を感じることはなく、一層不気味さを増している様であった。
ファントモンは、ストライクドラモンの手の中のテリアモンを見下ろすと、頭巾の中の暗闇に浮かぶ二つの目を途端に冷酷な眼差しに変貌させた。
「テリアモン、お前には失望した。あれだけ忠実な素振りを見せておいて敵に寝返るとは」
彼は先程の高笑いとは打って変わり、低い声のトーンでテリアモンに言い放った。本来の声質なのだろうとワーガルルモンは思っていた。
「せっかくお前の相棒と一緒に暮らしてやろうと尽力したというのに・・・」
残念がる様子を見せるファントモンであったが、本心からではない台詞であることをワーガルルモンはすぐに察した。わざとらしく首を左右に振るファントモンに、ワーガルルモンは口を開いた。
「おいお前、ファントモンと言ったな。お前の周りにいる人間たちは貴様がさらったんだな?」
ファントモンはワーガルルモンに視線を向けると、小さく息を吐いた。
「そうとも!正確には俺に協力してくれた理解者たちのおかげだがな」
ファントモンは自慢するかのように誇らしげに語る。その後、鎖で腰から吊るされた男性に近づき、彼の腕を撫でた。ワーガルルモンはファントモンに触れらている男性が、失踪者の弘田氏であることに気がついた。
「この男も自慢の一級品だ。見てくれ、意識を食われてから時間が経っているというのに顔色が良いものだろう?もう長くないだろうが、来るべき時までは存分に楽しませて貰いたいね」
しみじみと語るファントモンに、脇からワーガルルモンが話し掛けた。
「意識を食うだって?」
「そうとも、なかなか美味なものさ。お前が抱えている人間も、俺の予想が正しければ近年稀に見る一級品だろうな」
新木を指さしながらファントモンは嬉々としながら言った。と、テリアモンが大声を上げて反応した。
「待って!ノブヒコには手を出さないんじゃないのか!?」
テリアモンの声にファントモンは再び不機嫌な目を向けた。
「そんなことは言ってない!俺はその人間と共に居させてやると言ったまでだ!それさえ叶えばあとはどうだっていいんだろう!?じゃあ俺が人間を好き勝手してもいいわけだ!」
「そんな・・・」
冷酷に言い放つファントモンに、テリアモンは失意の中に沈んだように顔を項垂れた。
「・・・どこまでも外道な奴だ」
ストライクドラモンが呟くと、戦士らしい鋭い視線を改めてファントモンを睨み付けた。
「ファントモン、外世界への恣意的な干渉、並びに人間の誘拐の罪においてお前を逮捕する。テリアモン以外の仲間も全員揃えて我々に投降しろ」
ストライクドラモンの警告に対して、ファントモンはただただ不敵な笑みを浮かべていた。しばらくその場で浮遊したままだったが、やがて右手を静かに上げてから、
「・・・いいだろう。会いたければ会わせてやる」
そう言い放つと、手の平に紫色の球体が周辺の空気を吸い込むようにして発生した。それを見たストライクドラモンは両腕に炎をまとわせる。
「貴様!抵抗する気か!」
「ハハハ!このまま引き下がらないことぐらい分かるだろ!」
ファントモンが笑い声をあげると、球体は突然禍々しい紫色の波紋を発生させた。波紋はワーガルルモン達が立つ地面一帯に行き渡った。ワーガルルモンとストライクドラモンは咄嗟に防御の構えをとったが、波紋を受けても身体の異変を感じることは無かった。
「なんだったんだ?」
両掌を見下ろしながらワーガルルモンだったが、すぐさま周囲に僅かな異音が発生していることに気がついた。その音は次第に大きくなっていき、いつの間にかワーガルルモンたちの八方を囲うように様々な場所から発生していることに気がついた。
「何をする気だ!?」
ストライクドラモンはファントモンに向かって叫んだ。ファントモンは不気味に笑いながら二人を見下ろしていた。
「だから言っただろう?仲間を呼んだのさ!」
「仲間!?」
「俺のエサは人間だけだと誰が言ったんだ!?」
ファントモンの言葉を受けて、ワーガルルモンは頭の中で彼の言葉の意味を合点させた。その直後、周囲の地面に穴が開きだし、そこから毒々しい色合いをした液体が沸きだした。液体はそれぞれ形を作り出し、その正体をワーガルルモンたちの眼前へとさらけ出した。不気味な呻き声を発生する無数のデジモンたちを目にし、ワーガルルモンとストライクドラモンは暫く茫然と絶望的な光景を眺めていた。
「野郎・・・」
未だ混乱しつつあるワーガルルモンがようやく発した言葉がそれだった。彼は上空のファントモンを見上げると、大きな声で言い放った。
「こいつら全員、テリアモンと同じお前の協力者か!?」
ファントモンはそれまでとは異なった、勝者の笑い声をあげた。再び彼らに視線を落としたときには、その目は余裕のほどを見せるかのように輝いていた。
「さあお前たち、この花園を踏み荒らす侵入者を排除しろ!」
ファントモンの号令とともに、無数のデジモンたち ―それはレアモンと呼称された― がワーガルルモン達に向かいだした。足のない軟体であるのにも拘らずその速度は思いのほか早くワーガルルモンには感じられた。
「きやがった!」
2体はすぐさま、その場から逃げるように走り出した。新木を抱えたまま走りながら、ワーガルルモンは背後を振り返る。大量のレアモン達が未だに後を追ってくる様子が見られた。
彼は舌打ちをすると、ストライクドラモンに抱えられたままのテリアモンを見た。彼はいまだに放心状態のまま、顔を俯かせていた。
「テリアモン!」
ワーガルルモンの呼びかけに、彼はようやく反応を示した。
「さっさとさっきのガトリングの姿に戻れ!早くしろ!」
テリアモンはワーガルルモンの言葉の意味を理解できずにいた。彼を捕まえているストライクドラモンも、ワーガルルモンの命令に反発した。
「おいっ、犯罪者を放すことなど・・・!」
「俺とそのトカゲがあいつらを食い止める!お前は新木を持って助けが来るまで逃げ続けろ!お前の足なら可能なはずだ!」
ワーガルルモンの必死の呼びかけに、テリアモンはようやく彼の意図と自身の使命を理解し得た。ストライクドラモンの手の力が弱まっていることに気がつきすぐさまもがいて彼の手の中から脱出した。ストライクドラモンがすぐに捕らえようと手を伸ばすが、寸でのところでテリアモンの身体が空中で七色に輝き始める。やがて姿は先ほどのガルゴモンへと変化し、バランスを崩すことなく着地するとそのままワーガルルモンの横を並走した。
「こいつは任せた!」
ワーガルルモンは新木をガルゴモンへと投げ渡す。ガルゴモンは両腕のガトリング砲で彼の身体を挟み込むように受け止め、両腕で抱き上げた。
「このまま走り続けるんだ!いいな!?」
「う、うん!」
ガルゴモンは頷くと、より力を込めて足を踏み込ませ、速度を上げた。それを見たワーガルルモンは、ストライクドラモンに顔を向けた。彼はワーガルルモンに対して厳しい視線を向けていた。
「貴様・・・!」
みなまで言う前にワーガルルモンは足を止める。ストライクドラモンもそれに続いて足を止めた。迫りくるレアモン達と対峙するように面を向かわせるワーガルルモンに、彼は苛立ちを隠さない口調で口を開いた。
「もはや逮捕では済まないぞ。この場で極刑にかけられても文句は言わせない」
ストライクドラモンの抗議に対して、ワーガルルモンは黙ったままであり、視線はレアモンたちへと向けられていた。ストライクドラモンはこの場で2体を拘束下に置くべきかという判断を迫られた。だが、ワーガルルモン以上の脅威が目前にまで迫っている現実を受け、判断に混乱が生じていた。
彼は大きなため息を吐いた。決心を下すために迷いを吐き出したかのような重いものだった。
「・・・非常事態だ。しかたがない」
彼の言葉に、ワーガルルモンは口元を歪ませた。
「そこまで融通が利かない奴でなくて安心したぜ」
「黙ってろ。敵はすぐ目の前だ」
二人は手短に共闘の確認を済ませた。そして互いの目標は、目の前の敵の大群に向けられた。
tO be coNtinUed...
I'm back and hope to stay on here! XD
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