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ID.4993
 
■投稿者:tonakai 
■投稿日:2018/05/27(日) 22:20
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転生したおっさんは元飼い猫とデジモンやっています1−1
         
「ブチ〜、デジタケとって」

俺は釣り用の餌を相棒に催促した。

「はいはいにゃー」

投げてよこされたシイタケのようなキノコを半分に割って、ぼろぼろの釣り針にひっかける。

「さぁて何が釣れるかにゃ?何が釣れるかにゃ?」

昔、お昼過ぎにTVでやっていたサイコロを投げるトーク番組を思い出す。
平日が祝日のときしか見られないのが残念だった。

「待つのが釣りの醍醐味さ〜♪」

「その背中、哀愁ただようー」

「まぁ……おっさんだからね」

自称おっさんことウィザーモン種族の俺は、前世の名前は間会 士(まかい つかさ)、享年39歳。
死因は過労死、職場での働き過ぎだ。
結婚こそしていなかったが、職場の人間関係は良好。
多趣味でそれなりに充実していた人生だった。
しかし、職場の大規模な人員削減が俺を追い詰めた。
なんと半年という約束ながら1人で5人分の穴埋めをする羽目になった。
そして3ヶ月で力尽きることに。
後悔があるとすれば、両親より先に逝ってしまったことだろう。
そんな俺が記憶を引き継いでデジモンとして生活することになるとは……
ウィザーモンというデジモンは元人間にとっては都合の良い姿だ。
ほとんど人間と同じ姿形をしている。
生前より背丈が縮んだり、口元が縫い合わせたような作りになっているなんて気にもならない。
それよりも、4足歩行の獣や体が腐ったアンデッドなんかに転生してみろ。
考えただけでぞっとする。
さて、釣りの続きだ。

「釣れるかな? 釣れるかにゃ?」

片足ずつリズミカルにバランスを取りながら小躍りしている黒い猫のような生き物。
鞭のようにしなやかで自身の身長ほどはある長い尻尾、肉食のライオンまたはトラの手を模したようなグローブをはめている。
種族名はブラックテイルモン。
このデジタルワールドでの生活の相棒になったこいつは、なんと昔実家で飼っていた黒猫の『ブチ』だという。
物的証拠はないが、昔の記憶をよく覚えており、僕や両親の名前を言い当て、当時よくやっていた家の柱に背中を擦り付ける癖をやってみせた。
ちなみにその理由をきくと、肩の筋肉をほぐしていたんだとか。
猫って肩こるんだ……
話を戻すが、呼び方はそのまま『ブチ』としている。
本人もそれでいいと言ってくれた。

「おっと、ひいてるひいてる……ふぃぃぃぃぃしゅ!!」

バス釣り漫画の真似が抜けない元おっさんは、リールの付いていないボロボロの釣竿を力任せに引き上げる。
勢い余って、腰を打ち付けてしまったが、周囲がしっとりとした土だったことで怪我はないようだが、

「あっ、長靴だったにゃ」

「お約束っ!? てか誰の長靴だよ!?」

「目に見えるものが真実とは限らない。この湖で魚は釣れるのか、テイルモンは猫なのか、そもそも現実世界の生き物がデジモンに転生することはあり得るのか〜!?」

そう言いながら、高く振り上げた右手首をくるくる回してお腹のあたりまでもっていきながらお辞儀をした。

「デジタルモンスターの世界へようこそ、にゃ!」

「誰に言ってるの?」

カメラなどどこにもない。
ここはデジタルワールド。
元おっさんと、元飼い猫が第2の人生を送っている。





釣りの成果は散々。メダカみたいな小さな物が2匹だけ。
そんなテンションだだ下がりの中、

「なぁ、ブチ?」

「なにかにゃ?」

「その偽者っぽいネコ語使うの、やめようか?」

器用に右手だけで逆立ちすると、くるくると回りながら言う。

「い〜〜〜やにゃ!!」

あざとい。
ネコは気分屋であるはずなのだが、ブチは頑固だと思う。

「元々、ネコやってたし、別に不自然なことなんてないにゃ」

「いやいや、語尾に“にゃ”をつけるのは、あざとい2次元キャラだけだから」

ブチは逆立ちをやめて、人差し指をちっちっちっと、左右に振ってみせる。

「2次元キャラだからいいにゃ!」

そんなメタ発言は求めていない。
いやまぁ、シルエット自体は可愛い。
あの声が、なんとか戦争の神父だったり、メダルを奪い合う特撮番組のナレーションだったり、地球征服を企む曹長じゃないだけマシだ。……全部同じ人だ。

「今日はどうするにゃ?」

くだらないことを考えるのはやめた。魚がダメなら、

「肉をもらいにいこう」

「OK!! お肉〜お肉〜♪」

ネコって魚好きなイメージはあるけど、ブチは雑食だよな。





しばらく歩くと、畑が広がるエリアに辿り着く。
デジタルワールドでは当たり前である“お肉の畑”である。
こちらの世界では、お肉が骨付きで地面にできるのだ。
最初はたまげたものだが、もう慣れてしまった。

「お、来たな」

「こんにちは」

褐色の肌に、黄と黒のシマシマ柄のパンツを履いた鬼のようなデジモンが近づいてきた。
フーガモンである。
肉畑を世話しながら、その先の出荷・販売も手がけているらしい。
今日の分をもらいに来ましたと言って、あまり多くもないビット(この世界のお金)を支払う。

「おう、そんじゃこのあたりで3個ほど持ってけ」

指定されたお肉は下から2番目のランクであるミディアムサイズ。
梱包費や運送費にかからないだけ市場より安価のため、わざわざ現地まで買いに来ている。
しかし、お肉のくせに米や野菜より安いとのこと。
お肉もいいけど、ご飯も食べたい……


「おっちゃん、今日もありがとにゃー!」

「おう。たまにはバイトにも来てくれよ。報酬は現物支給になるがな、がっはっっは」

それなりに広い面積で栽培?しているので、収穫や選別の人手が足りないらしい。

「えぇ、前向きに考えておきます」

「バイにゃ!」

肉を入れたリュックサックを背負って畑を後にする。

「畑になるのに焼きめがついているのなんでだろう?」

「なんでだろう?にゃ!」

ブチは両手を挙げてその場でクルクルと回った。
人間ネタに精通している元飼い猫、情報の収集元は不明だ。
俺が生前の思い出話をすることはあまりない。
過去は振り返らない主義だ。
それはさておき、実はここ1週間は肉続きになっている。
煮込んだり、焼いたり、干したりしてみたが、やはり飽きてくる。
米や野菜は高いのだ。
自力で育ててみようと思ったが、育つ地面も苗や種もなかなか手に入らないとのこと。
この世界は 肉 > キノコ類 > 魚 > 米 > 野菜
の順番でよく食べられているらしい。
種族によっては、燃料や草花なんかの需要があるようだが、おっさんの口には合わないに決まっている。
いやそれよりも食生活の乱れが気になる。
肉ばかりは怖い。内臓脂肪はどうなっているんだ?
今のところ肥満なデジモンには出会ったことはないが……

「みんな鍛え方が違うにゃ」

「ブチがランニングとか筋トレしているところを見たことないんだけど」

「悪いデジモンに捕まってムチで殴られていた日々を経験してるにゃ」

よく性格が歪まなかったな。
頭をよしよしと撫でてやった。

「くーすーぐったーいーにゃー」

でもそれって鍛え方の話と違くないか?





さて、食事は今後の課題として、仕事を探そう。
弱肉強食のデジタルワールドといえど、ある程度は人間並みの文明を築いている場所もある。
今いる山岳エリアは、やや草原寄り。
緩やかな傾斜に住居や小規模な畑が点在する。
俺とブチはその中の古い空き家に住まわせてもらっている。
生活費は、森や山で入手できる採集物を売って凌いでいるが、

「そろそろ討伐依頼を受けるにゃ」

「そんな狩猟的なアドホックいらない」

「お供するにゃー」

ブチは用途不明のデッキブラシを振り回し始めた。

「ブラシもそうだけど、どこからそのネタ拾ってくるの!?」

そろそろ家の中を充実させたい。
ここには、ベッドと簡易キッチンしかない。
水道はかろうじて通っているが、お風呂もない。
デジモンに日々の入浴習慣はないらしいが。

「ギルド行ってみるか」





この世界のギルドは『なんでも屋』といったほうがしっくりくる。
持ち込んだ物を買い取ってもらうこと。
お困りごとを相談して、専属のギルド員が動いたり、実動員を雇って解決する。
ブチがいった討伐依頼は実動員を雇うパターンに当てはまる。
住まいから徒歩15分のところにあるギルドは、手前から収集物買取、依頼受付の順に並び、一番奥に実動員の募集掲示板とその受付が設けられている。

「こんにちは、今日も買取で?」

買取担当のフローラモンが声をかけてきた。

「いや、今日は割のいい依頼ないかなと思って」

「そうですかぁ。奥へどうぞ! 今日も何件が来てましたよ」

特になければいつものように収集に出かけようと思ったところだ。

「ふぅ〜♪ ブラックテイルモンはドッキドキ!(メキョッ)」

「はいはい」

今のところ元ネタが全部わかるのだから、俺のオタク度も相当なもんだ。





ギルドの一番奥は少し広くスペースがとられている。
簡易的な木製の机とイスが置かれていて、壁の掲示板に何枚か依頼書が貼られている。
ゲーム的なイメージどおりの風景。
さて、早速拝見。

『指名手配』
黒い雷!ワルシードラモン
報酬額2万bit
最終目撃地:竜の目の湖のほとり

『指名手配』
呪われし人形 ワルもんざえモン
報酬額1万5千bit
最終目撃地:デスバレー

さすがに指名手配デジモンを狩るほどの腕はない。
ブチに教えてもらった話だが、2体とも完全体で、自分たちは一つ下のランクの成熟期。
計画的に多人数で挑めば討伐できないこともないが、そもそも出現場所がわかない。
つまり効率的ではない。

「こっちはどうかにゃ」

『討伐依頼』
盗賊団“蛇の道は舞台上”を討伐せよ!
リーダーのカブキモン率いる盗賊団が山岳エリアを中心に暴れている。
腕に覚えのある者は助力を請う。

「これも無」

「これ請けるにゃ!」

ブチは依頼書をジャンピング剥がしして、受付へ持っていこうとする。

「まてまてまてまて!!」

抱き上げても足をジタバタさせるブチ。

「はーなーすーにゃー、カブキモンは成熟期! レベルだけ見れば勝てるにゃ」

正式にはアーマー体という世代らしいが、俺は別に情報通というわけでもない。
ツッコミどころはそこじゃない。

「でも俺、戦闘は苦手なんだ」

実はこの姿に転生してからバトル経験はない。
必殺技はどうやら雷を使った魔法攻撃らしいが、試したことすらない。

「僕は鍛えてますにゃ!!」

ギャルピースしながら、そのままディスク的な何かを投げる動作をする。
無視だ無視。
しかし、盗賊団のネーミングって劇場版か?
まぁ危なくなったら逃げるのもアリだよな。
この依頼だって俺たちだけが参加するわけでもないし……

「……ブチ、お前の腕はどうなのかは知らない。危なくなったら」

「大丈夫にゃ! ツカサは僕が守る!」

あぁダメだ。そんなナリで説得力ないけど、俺がか弱い女子的な何かだったらその一言でキュンってしちゃうのだろうな。
依頼書を受付に持っていく。
受付にいたのはウッドモンという背の低い樹木みたいなデジモン。

「はいよ、承った。ここにサインしといてくれ。集合は明朝、この建物の前だ。よろしく」

僕は自分の名前を記載し、ブチはどこから持ってきたのか、赤いインクを自分の手(グローブ?)に塗ったくってハンコのように押し付けた。

「ペッタンにゃ!」

はいはい、かぁいいよ、同居してるからお持ち帰らないけど。





翌日。
再びギルド前に来ると、俺たちと同じく討伐依頼を受けたデジモンたちが集まっていた。
いや、小さい村のデジモンたちだ。
数にすれば自分たちを含めて6体。

「お主らも討伐参加だな? ……震えているようだが大丈夫か?」

声をかけてきたのは日本の戦国時代で見られるような赤い鎧兜を身につけたデジモン、名前をムシャモン。

「あはは、実はこういうの初めてでして……」

「大丈夫にゃ。危なくなったら皆に任せて逃げるにゃ!」

「はっははは、気持ちの良いふてぶてしさよ! ま、こちらも人数を多く見せた方が相手にプレッシャーを与えられるゆえ、戦闘になったら物陰にでも隠れておればよかろう」

ムシャモンは、豪快に笑いながらその他のデジモンにも声をかけてまわった。

「なんか場違いみたいなところに来なかったか?」

俺は急に不安になった。
戦い方の心得みたいなものは、ブチに日ごろから言われていた。
攻撃はためらわないこと。
決して無理はしないこと。
敵から目を離していいのは全力で逃げるときだけにすること。

待て待て、それはおそらく戦闘経験がある場合に言えることだ。
繰り返すが、俺の場合、今の姿に転生してから1度も戦闘らしいものを経験していない。
運良く、ブチという旧知の存在に出会い、居住エリアであるここも比較的平和なところなのだ。

他に集まったデジモンは、リボルモン、ナイトチェスモン、ティアルドモン。
リボルモンは西洋のガンマンのような姿。手にはマグナムのような銃を持っている。
ナイトチェスモンはケンタウロスのような体に巨大なダーツを持っている。
ディアルドモンは両手に盾を構えた非常に防御力がありそうなデジモンだ。
刀、銃、ダーツ(槍)、盾・・・・・・いや気にしすぎだ。

「あとは、サジタリモンとか、ズドモンあたりがいれば果物戦争できそうにゃ」

考えすぎ! 考えすぎだから!!
なんかそれっぽいこというのやめろよブチ!!
いやな汗が吹き出た。





時間になったのか、受付のウッドモンがギルドから出てきた。

「皆、今日はご苦労様。奴らのアジトはわかっている。森に入って15分ほど北に進んだところにある大樹だ。時間制限なし、生け捕りにして報酬と引き換えだ。」

その後も諸注意を何点か説明していたが、俺の耳には全く入ってこなかった。

「緊張してるにゃ?」

「当然だろ! あぁ……なんでこんなの受けたんだろう」

後悔先に立たず。
自分を含めた6体のデジモンは出発することになった。
勿論徒歩だ。
デジモンという種族のおかげか、1時間ほど歩いたが、大して体力を使った感じはしない。
それでも、森の入口で一旦休憩することにした。

「お主、顔色がすぐれんようようだが、本当に大丈夫か?」

声をかけてくれるムシャモン。
こういう人がいてくれて本当に助かる。

「えぇ、まぁ……ムシャモンさんはこういう経験が豊富なんですか?」

「うむ、全エリアを旅しておるからな。だが引き際は肝心だ。怖がっていられる内が花というものよ!」

その後、討伐メンバーで簡単な作戦を確認した。
まず森に入ったら陣形をくむこと。
先頭はムシャモン、続いて右にティアルドモン、左にリボルモン、その後ろにナイトチェスモンの順で並ぶ。
そして俺ウィザーモンに、ブチが着いていく。
しかしながら、森自体、罠が仕掛けてあったり、獰猛なデジモンが潜んでいることもない。
アジトとされている大樹にはすぐに着いた。





普通ならここで茂みから様子を伺うところだが、それをしなかった。
気配がなかったからだ。

「おいおい、これは移動した後か?」

ムシャモンが刀を肩に背負いながら拍子抜けした。

「いや、焚き火をした後があるな、そこまで時間が経っていないんじゃないか?」

リボルモンが大樹の根元にある薪の燃え残りを確認。

「こちらの情報が漏れていたか?」

「だとしても夜のうちに移動するか普通?」

ティアルドモンとナイトチェスモンもどうしたものかと困惑しているようだ。

「う〜〜〜〜〜〜ん……にゃ! あれなんにゃ!?」

周りをウロウロしていたブチが何かを発見したようだ。
指差した木の枝に、竿に干されたように2つに折れたデジモンがいた。

「ありゃ……ゴブリモンか?」

ゴブリモンは成長期のデジモンである。
緑の子鬼のような姿をしている。
あの体勢はただごとじゃない。
ブチが素早く登ってゴブリモンを背負い戻ってきた。

「おい、何があった!?」

「……うぅ、ば、ば」

「ば? なに言って」

「ば、ばけ……もん……」

そういうや、ゴブリモンは足先から徐々に粒子化して消滅した。

「なぁ、これって」

「やばい案件?」

「じょ、冗談じゃねぇぞ!! 俺は抜ける!!」

「おおおおお俺もだ!!」

「ば、ばか者! よせっ!!!」

ムシャモンの制止をよそに、ナイトチェスモンとティアルドモンは一目散に走り出し、森の出口に消えていく。
間髪いれず、2体の断末魔が響きわたった。

「あはは……なんともお約束な」

パニック映画の王道だ。
生前はよく観ていた。
そして、悲鳴の聞こえた場所から得体の知れない何かの声が聞こえるんだ。

「ギュルルルルルゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウ」

「ひっ!?」

反射的にブチを持ち上げて顔を覆った。
頭も尻も隠れてたもんじゃない。

「ツカサ、なんの解決にもなっていないにゃ」

「わかってる、わかってんだけど!!」

ブチは俺のホールドから抜け出すと、ムシャモンに言った。

「ツカサを連れて逃げるにゃ! ここは僕が時間をかせぐにゃ!!」

「な、なにを……」

馬鹿なことを言い出した。
ブチはそりゃ俺よりは強いかもしれない。
身軽だし、戦闘経験もそれなりにある。
しかし、これは何の経験のない俺でもわかる。
ヤバい。
絶対にヤバいことに巻き込まれている。
凄まじくヤバい化け物がこの奥にいる。
そしてその化け物がものすごい音を立てて、こちらに向かってくる。
怪しく光る目が見え、次第にその正体をあわらす。

「ギュルルルルルルァァァァァアアアアアアアア」

咆哮を上げ、現れたそいつは…・・・

「なんと!! こやつ、伝説の十闘士の!」

「木のビースト、“ペダルチャリモン”にゃ!!」

「……いやお主、この状況でそのボケはなかろう?」

「にゃ? 違ったかにゃ?」

「……その粋や良し!! 時間稼ぎを買ってでただけのことはある!」

ムシャモンに『考えるのを止めた』というウインドウ表示が浮かんだような気がした。
現れたのは、木の葉をライオンのタテガミのように生やした4足歩行のドラゴンのようなデジモン。
円らな瞳が可愛い感じだが、咆哮にすっかりびびっていた俺は、その時、この世の終わりだと思うほかなかった。
正しい名前はペタルドラモン。
伝説のデジモンの1体で、その攻撃力や完全体を凌駕するという。

「だからアドホック的な何かはいらないって言ったんだよ!! 乱入クエストかよ!?」

「あ、デッキブラシ忘れてきたにゃ!」

「今そこ重要!?」

元飼い猫に突っ込みできる謎の余裕の俺。
……っていうの誰も突っ込んでくれない。

「ヘイヘイ、先手必勝だぜ!!」

リボルモンが自身の銃による攻撃を始めた。
全弾、ペタルドラモンの顔面に命中。
しかし、効果は全くないようだ。
相手は、何今の?って顔をする。
見た目以上に頑丈のようだ。
部位破壊なんてできる気がしない。
って違―――う!
と思うや、突如何かがリボルモンに貫き、天高く舞い上げられたと思ったら、粒子化して消滅した。
おそらく本人も何か起きたか把握できなかっただろう。
ペタルドラモンの背中の突起物がムチのように伸びて、そのまま貫いたようだ。
南無三。

「猫の御仁! あれを見ても時間稼できるなどと豪語するか!?」

「な〜に、こっちには策があるにゃ。なんにしても早くツカサを連れて逃げて欲しいにゃ!」

いつになく真剣なブチの目。
それを信じるしかないムシャモンは、俺を担ぎ上げ走り出した。

「すまん、武運を!」

「ツカサを頼むにゃ!」

ブチ、お前何を言ってるんだ!と声に出なかったわけだが、目があった。

「ツカサ、今度美味しいナマコをご馳走するにゃ」

馬鹿野郎、この状況で言うネタか! 死亡フラグじゃねぇか!?
疾走するムシャモンに担がれながらも、化け物と対峙するブチに見えなくなるまで叫んでいた。
ブチはこちらにサムズアップしたように見えた。
せめて古代人のベルトが体に埋まっていればなぁとか思ったりもした。





森から出てもムシャモンは走り続けた。
そりゃ森からあの化け物が出てくるとも限らない。
だが、10分ほど走り続けたところで、ムシャモンの体力がきれたようだ。

「す、すまぬ。ここまでのようだ」

おろされた俺は、お礼を言いつつ、水を差し出した。
しかし、気がかりだ。
ブチは俺を助けるために囮になった。
あんな化け物を相手に無事ですむわけがない。

「むぅ……あの猫の御仁、相当な使い手のようだが、やはり成熟期が伝説の十闘士相手に適うはずが」

「くそぉ、俺に力があれば!!」

思えば、ブチは色々ふざけてはいたが、この世界のことを色々と教えてくれた。
俺は転生してから、前世の記憶を持ったまま、この世界を生きていくことなんかきっと出来なかっただろう。
ブチとはいつも一緒だった。
可愛いやつだった。
抱えあげるとき獣臭いけど、毛並みはツヤツヤで、枕のように顔をうずめてジタバタしたかった。
やったらあの爪で顔をひっかかれていただろう。
でも死ぬ前にやっておきたかった。
あいつは雄ではあるが、そんなことは関係ない!!!

「僕、参上!! にゃ!」

背後から声がした。

「ブチぃぃぃぃいぃぃぃぃぃいいいいいいいい」

「ふにゃぁーーーーーー!!!」

間髪入れずモフモフしようとして顔をひっかかれた。
黒猫デジモンが確かにそこにいた。



つづく

ID.4995
 
■投稿者:tonakai 
■投稿日:2018/05/29(火) 21:31


転生したおっさんは元飼い猫とデジモンやっています1−2
「ブチ! 良かった! 夢じゃないんだな? いや〜良かった! ていうかなんで? どうして?」

嬉しいやら驚いているやらで、ブチの肩を揺らしまくる。

「お、落ち着くにゃ、とにかく、ギルドに連絡して本部にかけあってもらうにゃ!」

「うむ。今は無事を喜ぶべきだが、それも肝要。行くぞ!」

ムシャモンは先ほどの疲労なんのその、早足で出発した。
俺もいそいでその後を追う。
だが、そんなシリアス場面でも冷静でいられるほど神経は太くない。

「ブチ、どうやってあいつから逃げだせたのさ?」

「ふふふ、鍛えてますからにゃ!!」

理由になっていない。
まさかあの化け物を倒したわけがない。
あの巨体に跨またがって清めの攻撃で浄化したとはとても思えん。





「ペダルチャリンコモンって奴の仕業なんだにゃ」

「お主、本気でその名前で勘違いしておったのか?」

「にゃ? 違うのかにゃ?」

ギルドに戻った俺たちは、受付のウッドモンに報告した。
ウッドモンは最初は信じていないようだった。
きっとブチの余計なボケのせいだ。
ムシャモンがある程度説明すると、俺の証言も含めて、すぐに本部へ連絡してくれた。
連絡が終わるまで少し待つことに。

「話してもらうぞ。どうやってあの状況から逃げおおせたんだ?」

そりゃ無事でなによりなわけだが、どうにも引っかかる。
全速力で逃げればそれで良かった話だったのだろうか?

「目に見えぬスピードでモーションしてきたにゃ」

「それってクロック……」

「あいや待たれよ、それ以上は!!」

何かを察したムシャモンに止められた。

「ツカサ、ここから先は禁則事項にゃ」

人差し指(?)で口を塞ぎながらウインクを投げてきた。
み、ミラクル……
♂じゃなければ、萌えていたぜ。





ムシャモンは腕組みをしながら何やら難しい顔をしていたが、
やがて口を開いた。

「やはり、今回の報酬はないのだろうか?」

そりゃ気になるよね。
お金目当てで請けた仕事だったのだ。
疲労や時間を考えると
まぁ失敗と言えばそうなるのかもしれないが、そもそも話が違うのだ。
あんな化け物が出てくることは想定していない。

「交渉次第だけど、情報料くらいはもらえるかもしれないにゃ」

ブチはその辺の事情に詳しいみたいだ。

「……うむ、デリートされたデジモンたちには悪いが、こちらも食い繋いでいく必要があるのでな」

また日を改めると言い残し、ムシャモンはギルドを出て行った。





「そういやブチ、あのデジモン、この村にまで来ないよね?」

それが一番の懸念事項だ。

「大丈夫にゃ、ツカサは何も心配することないにゃ!」

今日は帰るにゃ!と言って、さっさとギルドを出て行く。
俺は釈然としないままその小さな背中を追った。





翌日。

「ごめんブチ、なんか今日はボロボロだぁ……」

起きてからどうにも体の調子が悪い。
昨日色々あって疲労が一気に襲ってきた感じだ。

「わかったにゃ、今日は僕ひとりで行ってくるにゃ」

「すまない我が忠義の猫よ」

今日の食料確保をブチに任せて休むことにした。
自分よりもずっとブチの方が疲れているはずなのに、あいつはケロっとした顔をしていた。
いや、あいつは猫だ。
この場合は“うにゃっとした顔”というべきかもしれない。
とにかくすごく眠い。
横になって目を瞑った。





気づけば森にいた。
おかしい。
確かに寝ていたはずだ。
というか勘弁してくれ。
森はもうこりごりだ。トラウマだ。

「やぁ、初めまして」

「うわっひゃぁ!!!」

変な悲鳴を上げてしまった。
我ながら女々しいやつだ。

「ははは、驚かせてすまない」

声をした方を向くと、なんか自分とそっくりな姿のデジモンがいた。
正確には、色を反転させたようなデジモンだ。
全身白い衣装で、氷の結晶を模した杖を持っている。
ヤバい、こいつ俺の体を乗っ取ろうと画策している刀の精霊的なサムシングじゃね?

「大丈夫、君をどうこうする気はないよ。僕はソーサリモン、このデジタルワールドとは違う世界、『ウィッチェルニー』のデジモンさ」

ウィッチ? 魔女とか魔法使いのアレか?

「そうそう、理解が早くて助かるよ。今、君の頭に直接語りかけてる。声だけじゃ混乱するかなって思って景色とボクの姿もイメージとして投影したんだけど……少し失敗だったかもね」

気遣いがかえって悪い方向に行ってしまうのことはよくあること。
実は、俺の足は産まれたての鹿のような状態になっている。
森怖い、暗い、変なやつ来た。
母さ〜ん、ブチ〜、ヘル〜〜〜〜プ!

「あはは、まともに話を聞いてもらえないねこりゃ。ちょっと模様替えでもしてみようかな」

ソーサリモンが、ステッキとを魔法使いよろしく、くるっと振るうと周りの景色が見慣れた部屋に変化した。
おぉ〜いつものいつもの!
俺はガキか!

「それじゃ本題。昨日、君はある物を見たね?」

昨日のっていうとあれか。
チャリンコデジモンだっけ?
どう見てもあれを自転車とつなげるには無理がある。
自転車のペダルと名前のペタルが似ていただけだ。

「ん〜……やっぱり話が進まないから、しばらくこちらの話を聞いてもらおうかな」





ソーサリモン曰く、
昨日遭遇したデジモン、ペタルドラモンはムシャモンが言っていたとおり、伝説のデジモンであり、森に生息していることはありえない。
考えられるのは、なんらかの異常なエネルギーが付近にいたデジモンに干渉して異常な進化を発現したということ。
その異常なエネルギーをこのデジタルワールドでいくつか観測したという。
ウィッチルニーとしては別世界のことなので、関与しないのが当然だが、自分たちの世界にも影響が出ることも想定して、可能な範囲で助力をしていくことにしたという。
しかし、それは飽くまで非公式での関与。
そして、

「君たちからもその異常なエネルギーを感知した。しばらくは何かするつもりはないが、監視はさせてもらう」

き、君たちって……

「うん、君とブラックテイルモンさ。また何かわかったら、こういう形にはなるけど、連絡するよ。大丈夫、就寝中を狙うからさ」

日常生活に支障をきたさないということか、お気遣い痛み入ります。
しかして突如、景色が暗転する。





目を開けると、自分のベッドで寝ていた。

「夢じゃ……ないよな……」

「夢の中へ〜夢の中へ〜行ってみたいと思いませんか〜にゃはっは〜♪」

もうこの猫、俺の世代に生きていた気がしない。

「ブチ、ごめんな。体力はたぶん回復したと思う」

「気にしなくていいにゃ。お肉もらってきたにゃ〜」

やっぱり今日もお肉ですか。大変よくできました! ちくしょう、米が喰いたい。





さらに翌日。

「というわけで、今日はツカサを特訓したいと思いますにゃ」

「なぜ特訓?」

「特訓すれば、強欲幹部も学園長もヒロインの親父もぶっ倒せるってタチb」

「わーわーわーわーわーーーーーーーーーーー!!!!」

まったく、油断も隙もあったもんじゃないぜ、この世俗に塗れたオタク猫が!
しかし、特訓っていうとあれだな。

「ブチ先生、それは戦闘訓練的なアレですか?」

「モチのロンだにゃ」

まぁ身を守るくらいの訓練は必要だもんな。
アラフォーのおっさんは運動不足なのだ。
腹は出ていないが、腕も足も女性モデルのように細い。
ウィザーモンは魔法使いだからいいんだい!

「ではツカサくん! まずはこの巨大な岩玉……ではなく、巨大な泥玉を壊すことなく受け止めてもらうにゃ!!」

巨大なシルエットにボロ布を剥がすと、確かに直系2mほどある泥玉が出現した。

「製作に5時間かかったにゃ! 僕の努力が無駄にならないように真面目にやってほしいにゃ」

「はい、一生懸命やらせていただきます!」

だってそうだろ? 俺のために5時間かけて……俺のためだよな? 楽しんでないよな?

「そんじゃ、レッツらゴーにゃ!!」

ジャンピングネコキックを放ち、泥玉がゆっくりと俺の方に転がり始めた。
今立っているところは、ゆるやかな勾配になっている。
ブチが上で、俺が10mほど下にいる。
徐々にそれは近づいてきて、

「うっしゃ! バッチこい……ちょ、この、うぉぉ、なんの、この、せい! え、あれ、ちょ、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

視界がぐるぐる回って止まった。

「大丈夫にゃ!?」

ブチが駆け寄ってきたが、しばらく目が回って動くことはできなかった。
泥玉は壊れるどころか、その圧倒的な重さと体積で林の入り口にめり込んだ。
デジモンで、成長期以下であれば圧死していたところだ。
ブチ、恐ろしい子……5時間の熱血は無駄になったけどな。





場所を変えた。

「筋力の前に体力をつけるにゃ! 覚悟とかそういう精神論は後でどうにかなるにゃ」

本当かよそれ……いや、今は気にすまい。
健全な魂は健全な肉体に宿る。
いつものとんがり帽子とローブを脱いで、ランニングをすることにした。
10年以上も運動らしい運動をしていないもので、明日以降の筋肉痛が怖いが、なかなかに気持ちいい。

「ツカサ、とりあえず村の外を100周にゃ!」

「100周!? 初日から飛ばしてないか!?」

しかし、意外や意外。走れるものだった。
これがデジモンの力か?
なんで筋力には還元されていないんだ!?
いやしか〜し、食べるものがやばい美味い。
肉しかないけど、いつもの何倍も美味い!
人間のおっさんでダイエット中なら、きっと失敗するパターンだ。
体力面はなんとかなりそう。……続けばだけどな。





「じゃぁ、魔法はボクが教えてあげよう」

夢の中、昨夜のソーサリモンが語りかけてきた。
睡眠学習ってやつだな、ロマンがある。
でも、どうせ枕元でささやいてくれるなら美人がいいなぁ。

「教えるのは我慢してほしいけど、機会があれば、ウィッチェルニーの可愛い娘を紹介してあげようか?」

ウィッチェルニーの可愛い娘……魔法使いの女の子……魔女……
鼻がやたら高い双子の老婆の顔が浮んだ。
凍らされてから燃やされそうになるのを想像して顔が青くなった。
反射する盾など持っているはずがない。

「あはは……じゃあ早速始めようか」

実は、俺ウィザーモンは、ウィザードっぽい名前と格好をしているくせに魔法が使えません。
デジモンって自分の技は本能で出せるものじゃないのか?と思ってブチに相談したら、サムズアップしながらドヤ顔でこう言った。
『目覚めよ、your soulにゃ!』
相談した俺が馬鹿だったよ、子猫ちゃん。

「攻撃魔法自体は別に難しくはない。使いたい魔法をイメージして、魔力を手放すように打てばいい。問題は魔力をいかに節約して使えるかなんだ」

そりゃ燃費が良いに越したことはない。

「でも、攻撃の威力に応じて、魔力を体外に押し出すための魔力量も重要なんだ。威力が大きくするほど、押し出す魔力もそれに比例した大きさにしなければならない」

なるほど。押し出す魔力だけ大きくしても燃費が悪くなるし、威力を抑えれば命取りになると。

「バランスも大事だけど、魔力の総量、乗り物に例えれば燃料タンクってことになるけど、これが大きければ戦闘では有利になるよね。たま数が多ければ攻撃のチャンスはそれだけ多くなる」

理屈はわかる。
MPが多いとそれだけ強力な技が撃てたり、回復アイテムの消費が抑えられるのはゲームの基本だ。
ゲームに例えるのは不味いかな?

「タンクを大きくしたいなら単純な話さ。使い切って、たくさん寝て、回復したらすかさず使い切って寝る。」

レベル制のアクションゲームだなそれ!?
やっぱ考え方はゲームが基本でいいみたいだ。
まじかよ。

「おっと、話がそれちゃったけど、君の場合それ以前の問題でしょ? まずは魔法をまともに使えるところからだ。イメージトレーニングだよ」

イメージトレーニングか。
技名は確か、『サンダークラウド』。
雷雲を呼び出し、雷を落とす技だ。
まずは雷雲を……

「ところで、雷雲ってどうやって発生するか知ってるかい?」

え?





目が覚めた。
と理解できたのは、自分が横になっているから。
ずっと起きていた感覚なので、気づけば魔法使いの師匠がいなくて、ブチがせっせと朝食の準備をしていたという状態。
ブチはもはや嫁である。雄だけど。

「おはようにゃ! ご飯できたにゃ、あ・な・た(はあと)」

「いつもありがとうな、ハニー」

疲れていたのだろう、三文芝居にライトに乗ってやった。
日本人なら、朝食はご飯と納豆と味噌汁、焼き魚なんかもあると豪勢だ。
忙しいサラリーマンならパンと牛乳くらいは食べるが……

「今日はお肉のおひたし、お肉の味噌汁、お肉の漬物にゃ!」

「混沌お肉三昧!!」

壁に自ら頭を打ち付ける。
いやだ、こんなお肉だらけの生活いやだ。
こんな村、とっとと出てやる!
住人は良い人、比較的治安は良い。
見知らぬ土地での生活環境としては破格だ。
誤解をしてはならないのは、日本が異常なのだ。
道端で酔っ払って、明け方まで寝ていても風邪をひく程度ですむが、外国なら身ぐるみをはがされるどころか、殺されるところだってあると聞く。
落し物だって割と高い確率で戻ってくる。
あの国は平和だ。
わかっている、わかっているのだが……

「ブチ、俺バトルに向いてないわ。ランニングだけは続けるし、体力ついたら新天地目指して旅に出るから」

「にゃにゃ!? そんなのお母さん許しませんにゃ!」

ちゃぶ台をひっくり返すかのようにテーブルを叩くブチ。
田舎で育った子供が都会に行くことを反対する母ちゃんみたいな構図になった。
と言うか、これでは父ちゃんだ。さっきまで嫁だったのに……

「あんたが思っているほど世の中は甘くないのだにゃ。凶暴なデジモンに瞬殺されるがオチにゃ!」

「あのチャリンコデジモンみたいなのがたくさんいるってこと?」

「……そうだにゃ」

「今の間はなんだよ?」

「……」

「……」

「と、とにかくダメったらダメなんだにゃ!」

ブチは俺を村から出したくないらしい。
ここはパラ●イムシティなのか?
よし、ここの住人に色々と聞き込みしてみるか。
今まで世間話程度で、歴史みたいなことを勉強していたわけではなかった。
とりあえず、もう食べ飽きたお肉の朝食を食べて出かける準備をする。

「お留守番よろしく!」

「僕も一緒に行くにゃ」

「だめ〜」

「なっ、連いてくにゃ〜連れていくにゃ〜、てか連れてけにゃ!」

下手な3段活用だな。
ボケのキレが落ちている……何か焦っているのか?
とにかく1度エリアを出てみるのもいいかもしれない。

「まぁとりあえず、今日のところはいつものランニングに行ってくる。ブチは今晩の食料の確保をお願い」

「……本当かにゃ? 僕に内緒で“いいとこ”行くんじゃないのかにゃ〜?」

ははは、デジタルワールドにそんなところがあるのかよ?
人間だったら探しに行くくらいはしたかも、だっておっさんだもの。

「う〜〜〜、まぁいいにゃ。四六時中、僕といるのも息がつまるのかもしれないにゃ。憂さ晴らしでもしてくるにゃ」

「そうさせてもらうよ」





親元を離れた子供のように、足取りは軽い。
一番早くこのエリアを出るときは東に向かえばいい。
エリアを抜けた先には砂漠が広がっていると聞いたことがある。
なぁに、片足つっこむ程度の話だ。
気分展開と見聞を広げるのもたまには良いだろう。
そんな気持ちでぶらぶらと村のはずれに来た。
ちょっとした林を抜ければエリアの境界だ。
さてさて、砂漠ってのも前世では見たことなかったからなぁ、やっぱ暑いのかなぁ?
夜は寒いって聞いたことはあったけど。

そろそろ林の切れ目だ。
何か開けた感じの風景がちらりと見えた時だった。
向こうから誰かが歩いてくる。
もちろん、デジモンだろう。
しかし、どう見てもシルエットが人間みたいだ。
スタイルの良い8頭身、足元まである丈の長いコート、マフラーを巻かずに肩に引っ掛けている
手には長細い何かをもっていた。
映画でみたことがある。重火器の類だ。

「ふん、ウィッチェルニーのガキじゃねぇか。一人でこんなところブラブラしてっと、俺みたいな悪者にデリートされちまうぞぉ」

姿がはっきりした。
人間のように見えたそれは、口元から下。
鼻から上は角の生えた狼のような獣面のデジモンだった。
背中に悪魔のような翼もあった。
これはやばいと頭の中で警鐘が鳴っている。
そもそも格下のデジモンとも戦って勝てるかも怪しいのに、強そうなデジモンを目の前に、俺はまたしても足がすくんだ。
ペタルドラモンの時はブチとムシャモンのおかげで逃げおおせた。
だが、今回は俺一人。
ちょっとした油断がまさに命取り。
なんでフラグじみたことに気が付かなかったんだ俺は!?

「なんだよ、足が震えてんぞ? 情けねぇな」

ニヤニヤしながら近づいてくる。
別に殺すとか言われていないわけだし、このまま素通りしてもらえるんじゃなかろうか。
甘いかな?
すれ違いざまに帽子越しに銃口を突きつけられる。
甘かった。

「あんまりない経験だろ? どうだぁ、死に際の世界はぁ?」

銃口が突きつけられるのは生きた心地がしないと言われるが、まさに今がそれ。

「あ、あっ……し、死に死にたくあああああありまありまありま」

「死にたくないってかぁ!! はははははっ、命乞いだなそいつは! さぁて、どうしてやるかなぁ〜?」

もはやこれまで!なんて思う余裕すらない。
声を絞り出すだけで精一杯だ。
だが、

「やり過ぎだ、アスタモン!!」

刹那、空気が重たくなった気がした。
そして、砂漠の入り口に、黒い靄が出現した。
声はそこから発せられたようだ。

「ちっ、管理者様のご登場ってかぁ? いいとこなんだから邪魔すんじゃねぇよ、デーモン!!」

赤黒いローブで全身を覆った不気味なデジモンが姿を現す。
デーモンというらしい。
アスタモンと呼ばれたデジモンと同じく、頭には角、背中には羽が生えていた。
そいつは、巨大な右腕で払いのける動作をする。
銃口を離せをいう指示だったのだろう、アスタモンがそれに従い、俺から離れた。

「運のいい野郎だな」

つまらなそうな顔をして、デーモンに近づいていく。
助かったのだ。
あの悪魔の名前そのままのデジモンに感謝しなくてはならない。
今なら、邪教徒になってもいいかもしれない。

「じゃあなぁガキィ、命は一つしかねぇんだ、大事にするんだな!」

アスタモンは振り向いて言い放った。
デーモンが出てきた亜空間へアスタモンが入っていった後も、俺はしばらく動くことができなかった。
ちびるかと思った。
しかし、ペタルドラモンと順番が逆だったことを考えると、きっとやらかしてしまっていただろう。

「帰るか」

今、俺の冒険が終わった。



つづく

ID.4996
 
■投稿者:tonakai 
■投稿日:2018/05/30(水) 21:57


転生したおっさんは元飼い猫とデジモンやっています1−3
「ただいま……」

「お帰りにゃ! ごはんにする? お風呂にする? それとも……
に・く・きゅ・う?」

現在、嫁モードの元飼い猫。
あのグローブの下にそんな魅力的な部位があるのだろうか?
それにしてもツッコむ元気がない。

「寝るわ」

ふらふらの足取りで、倒れこむようにベッドにダイブする。

「ちゃんとトイレに行ってから寝るにゃー」

ごめんブチ、処理は任せた。
頭がまともな寝たきりの老人はこんな心境なのだろうか。
意識が暗闇の中に沈んだ。



「やぁ、こんばんは」

夢か。
白い魔法使い、ソーサリモンが今夜も俺に語りかけてきた。
こんなときでも交信できるんだな?
そういえば、異常なエネルギーを感知したとかなんとか言ったことを思い出した。
あれから何か進展あったのだろうか?

「いいや、まだ進展がない。こちらも歯がゆいわけだが、やはりそちらに直接出向く必要があるらしい」

それはそれは、急いで迎え入れる準備をしないと。
歓迎パーティだ。
肉しかないけど……

「ははは、それは魅力的だね。こっちはお肉が貴重品なんだ。本当に残念なんだけど、私はいけないんだ。調査員をそちらに送り込むから仲良くしてやってほしい。この前言っていた可愛い娘だ。口説くのは自由だけど、仕事の邪魔だけはしないでね。それじゃあ今日の講義だけど……」

魔法の講義を受けて目が覚めた。





「にゃにゃ、どちら様ですかにゃ? 悪質な勧誘はお断りするように主人に言われておりますにゃ」

ベッドから天井をぼーっと眺めていたことを自覚した頃に、玄関でブチが何やら騒いでいた。
お客のようだ。重たい体に鞭打って起き上がると、

「ウィッチェルニーにから来ました。ツカサさんという方がいらっしゃるとお聞きしまして……」

ん?ウィッチルニー?
何だっけそれ? 最近どこかで……

「聞いたことないですにゃ。どこかと間違えて」

ブチは追い返そうとしているようだが、訪問者と目があった。
ウィザーモンと似たようなとんがり帽子猫のエンブレム付き、露出を抑えた足元まである赤いワンピース、黒い短めのローブというかマント、いかにも魔女ですという格好だ。

「あ、ウィザーモンのツカサさんですね! 私、ウィッチモンって言います! 調査員としてこちらにはせ参じました」

名前もまんまだった。デジモンって皆そうなのかな?
ウィッチモンと名乗った訪問者は、鋭利な爪が素敵な巨大な手を差し出してくる。
握手のつもりだろう。
昨日の出来事がフラッシュバックする。
『命は一つしかねぇんだ、大事にするんだな!』

「お、おおおおおおぅ……い、命ばかりはぁぁぁぁぁぁ」

全力で後退したが、狭い家だ。すぐに壁に激突して、肩を打った。
もだえるしかない。

「保険なら間に合ってますにゃ! お引取りくださいにゃ!!」

ブチはとにかくこの調査員を追い出したいようだ。
そういえば、飼い猫時代にお客が家にくると、誰にでも威嚇してたっけか?
とにかく他人を家にあげたくないようだ。
まぁ放置だよね、俺もダメージから回復していないしな。





仕切りなおし。

「えーっと、君がソーサリモンの言ってた調査員で可愛い娘なんだ?」

「はい、調査員です。……可愛い娘って何のことです?」

ブチみたいな大きな目でまばたきしている。
現在、家に2人と1匹でちゃぶ台を囲んでいる。
とりあえず、警戒の表情を崩さないブチは無視しよう。

「あ、いや、そこは気にしなくていいよ。それで、調査ってどんなことするの?」

「はい、お二人の行動を監視させていただきます。あ、監視といっても行動を制限するとか、怪しいところを見つけて何かしようって気はありません」

「もしそうなら、僕はあんたをムッ殺す!!」

コラコラ、そんな物騒なこと言わない言わない。

「わかった。別に何がってわけじゃないけどよろしくね」

「はい、ではしばらくご厄介に」

ん? ご厄介?

「はい、しばらくこちらに家にご厄介にと」

あ、今なにかが弾ける音がしたような……ってブチ、お前、瞳のハイライト消えてるから!
遠隔兵器でえぐい攻撃しそうになってるから!

「もう我慢ならんにゃ! ウィッチモンとやら、勝負にゃ! 表出ろにゃ! ガルルル」

メンドーなことになったぞ。
あとブチ、それ、別のデジモンになってるから。





「あのー、どうしてこんなことに?」

ウィッチモンはわけのわからないまま、家の前でブチと対峙している。
ブチは手首足首をまわして準備運動しながらウィッチモンをにらめつけた。

「この家はツカサと僕の“愛の巣”なんだにゃ! 邪魔する奴は馬に代わって折檻だにゃ!」

おーい、それなんか色々混ざってるから。
それと、愛の巣とか誤解招くから止めてね、ハニー!

「あはは、なんかすごいことになってますね……仕方ありません、お相手しましょう!」

ウィッチモンもブチの戯れに付き合ってくれるようだ。
いい娘じゃないか。
右手を上げると、どこからともなく身の丈以上の長さをホウキが現れる。
おぉ、ますます魔女っぽい!と頭の足りない考えを浮かべていると、またがって宙に浮いた。高さにして2mほどか。

「にゃにゃ、浮くのはずるいにゃ! 地上で戦うにゃ!」

「と言われましても、そもそも接近戦メインのあなたに対して、魔法使いの私が不利なのは明確じゃないですか」

ブチはすばしっこいし、あんななりで力も強い。
ウィッチモンの言い分はわかる。
しかし、空中戦、中遠距離攻撃ができないブチでは……

「勝負にならないにゃ!」

「はぁ……では、この高さまでならどうです? これ以上の高さになれば私の負けということで」

ホウキに腰かけて、足がギリギリつくかくらいの高さに調整した。
これなら接近攻撃は届く。
地面との摩擦は0のままだから、ブチがやや不利かもしれないが、口出しすることじゃない。
あいつが始めた喧嘩なのだ。

「仕方ない、やってやるにゃ!」

ブチは飛び掛る。
ウィッチモンは後退する。
ブチはあきらめずに必殺技を放つ。

「ネコパーンチ!」

ちなみにブラックテイルモンの正式な技名である。
ブチは決してふざけてはいない。
こぶしを突き出し、ウィッチモンに飛び掛る。
しかし、後退して回避される。
ホウキでホバー状態の相手に予想できたことだ。
このままブチの体力が0になるまで逃げ切れば終わり。
お互い傷つくことなく勝負が終わる。

「ぐぬぬ、なかなかの策士だにゃ。しかーし、僕には奥の手があるにゃ!」

言うと、ブチは左手を腰の辺りに、右手を肩の辺りで握って唸り始めた。
あ、なんか周囲の空気がゆらぎ始めたぞ。
戦闘力の計器があれば、数値がカンストして破裂するやつだ。
って、おいおい、なんだかシャレにならない雰囲気になってきたぞ?

「あはは、なんかガチな感じになってきましたねー……」

「笑っていられるのも今のうちにゃ! 僕は兄弟よりあと1つ多く変身できるにゃ!」

「ご兄弟がいらっしゃるんですね?」

俺も初耳だぞそれ。
ガセネタ乙。元ネタは某劇場版アニメだな。
でもまとったオーラは本物だ。

「そんじゃいくにゃ、変し……うにゃ!?」

突如、ブチが素っ頓狂な声を上げて、宙に浮いた。
長い尻尾をつかまれて逆さの状態だ。

「何をしているのだ?」

「にゃにゃ、なんであんたがここにいるにゃ! はーなーすーにゃ!!」

じたばた暴れるが、尻尾切れたりしないのだろうか?
ブチの尻尾をつかんで宙に浮いているのは、黒い靄。
あれ? めっちゃデジャヴなんですけど。

「お前は目を離せばすぐこれだ。こちらも忙しいのだ、手間をかけさせるな!」

靄から現れたのは赤黒いローブを着たデジモン。
ウィッチモンもただ事ではないことを悟り、俺の側まで来ると、ホウキから降りた。

「あの方は?」

「いや、俺も詳しくは知らないんだけど……」

ブチを宙吊りにしているのはデーモン。
そういや、昨日会ったばかりだ。
思い出したら足が震えてきた。

「エリア管理者がこのど田舎まで、どんだけフットワークが軽いにゃ! 理想の上司にランクインしたいのかにゃ! 投票しておいてやるから、とにかく離すにゃ!! このいけず! 鬼! 悪魔!」

ネコキックでデーモンの顔面を蹴っているが、蹴られている側は意にも介さない。

「無用な争いをするなと言ったはずだ。“お前の力はそんなもののために与えたのではない”のだぞ!」

ブチは急に苦虫をつぶしたような顔をしておとなしくなった。
威嚇するようにすごい目にはなっているが。

「こっちにも事情があるにゃ。エリア破壊とかデジモンをデリートするまではしてないにゃ!」

犯罪じゃなければ何をしてもいいんだという子供の理論だそれ。
デーモンは鼻で笑いながら、ブチを放り投げる。
綺麗な放物線を描いて俺の胸元に落ちてきた。
ナイスパス。

「ウィッチェルニーの客人、調査は自由にして構わんよ。何かあれば力を貸そう。そこの阿呆ネコにでも言ってくれ」

「あ、はい! ありがとうございます!!」

目を丸くしつつも元気に返事をするウィッチモン。
そういえばこの娘の表情、猫っぽいなぁ。
我が家に猫が1匹増えたということか。
デーモンは、俺に目線を移す。
わぉ、油断してたぜ。変な汗が出てきた。

「君には手間をかけるな。昨日のことは私にも責任がある。今度使いを出すから、諸々の事情含めて話をしよう」

あ、意外と優しいかも。
昨日のことって、アスタモンのことかな?
PTSD(心的外傷ストレス症候群)になりかかっているんだ。
アフターケアを所望する。
デーモンは、悪魔の風貌という圧とローブのせいで表情を読み取ることはできなかったが、普段は常識人で温厚なのかもしれない。
だが、さっきみたいに怒らせると怖いタイプ。
デーモンは不気味なワームホールを開いて帰っていった。
そして、デーモン公認で我が家の滞在が許可されたウィッチモンであった。

「よかったです。これで仕事ができます!」

ガッツポーズするウィッチモン。
うん、かわいい。

「ふん、僕は認めたわけじゃないにゃ」

ふて腐れる黒猫。
さて、この2人の仲をとりもつことと、ブチの事情を探る問題が出てきたな。
どうしたものか。





「おぉ、これうまい!! うまいうまい!!」

「おかわりもありますよ」

絶賛、食事中。
ちゃぶ台に並べられた料理に俺は感動していた。
肉と野菜の炒め物、野菜スープ、ご飯……実家だ。おかんの味だ。
炒め物は味噌味っぽくて、回鍋肉に近い。
野菜スープは具沢山でコンソメ味だ。
そして何よりもご飯! 白いぜ、もちもちしてるぜ、暖かいぜ。
ぜひ嫁にほしいな。と口が滑りそうになった。
口に出して言えば、うちの猫の機嫌がさらに悪化するだろう。

「まぁまぁだにゃ」

と言いつつも、口に運ぶ度に耳がピクピクしている。
あれは美味いものを食べているときの癖だ。
本人は気づいていないのだろう。
素直じゃないな。

「お肉が潤沢でびっくりです。ウィッチェルニーは野菜と米は手に入るのですが、お肉は高級過ぎて手が届かないんですよ」

こちらとは逆の世界のようだ。
だったら、ずっとこちらにいてもいいんだよ?とか田舎のばあちゃんのようで、若い娘に鼻の下を伸ばしたスケベなおっさんの台詞が出そうになった。
あぶないあぶない。
俺はおっさんだが、スケベではない。紳士なのだ。

「鼻の下が伸びてるにゃ」

ブチの鋭いツッコミ。
ナイスフォローだ、我が忠義の猫よ。

「ところでお二人は、昼間はいつもどうされているんですか?」

おっと、なかなか痛いところを突いてくる。
ニートよりのフリーターであることがバレてしまう。
この猫にヒモと言われても文句は言えまい。

「ギルドに通っているんだ。森で採集した薬草とかキノコを買い取ってもらって生計を立てている」

嘘は言っていない。
リサイクルできる物を拾って換金している人みたいに聞こえるけど、歴史的に、野原にまじりて竹を取りつつよろずのことに使いけりってあったよな。
……あれはフィクションか。
いやいや、その時代背景に沿った設定のはずだから非現実的ではないはず。
俺は一体、何を必死になっているんだ?

「ツカサ、明日はムシャモンとこの前の森に行ってほしいにゃ」

話題を変えるかのように、ブチがいきなりとんでもないことを言ってきた。

「ばっ、お前、何を言ってるんだ!?」

「もうペタルドラモンはいないにゃ。」

あ、名前間違えずに言えた。
やっぱりあれはボケてたのか。

「どうしていないってわかるんだよ?」

「あの後、ムシャモンとエリアの警備団で調査をしたんだにゃ。データの残滓を確認したら、あのデジモン、カブキモンが変質したものだったにゃ」

カブキモン。
討伐依頼になっていた盗賊団のリーダー。
そんなデジモンが、本来ありえないデジモンに変化したという。
なるほど、ソーサリモンの観測したと言っていた異常なデータがイレギュラーな現象を発生させたのか。

「ちょっと待てよ、そもそもペタルドラモンはどうしていなくなったんだよ?」

「それは明日にでも“助っ人”に聞いてほしいにゃ。僕は別の用事があるから、ギルドでその助っ人とムシャモンと合流して行ってほしいにゃ」

まさかブチから別行動を申し出るとは。
明日は槍でも降ってくるのか?

「わかったけど、ブチは?」

「……不本意ながら、腐れ外道のデーモンのとこに行ってくるにゃ」

「呼び出し?」

「そんなとこにゃ。あいつとのことは近々に話すから、もう少し待ってほしいにゃ」

話す気があるならいい。
これ以上は問うまい。

「……魔女っ娘はツカサに着いていくにゃ。きっとウィッチェルニーにとって有益なものが見られるかもしれないにゃ」

「わかりました。明日はよろしくお願いしますね、ツカサさん!」

お、おぅ、笑った顔も可愛いじゃないか。
ところで、“魔女っ娘”という呼び方はスルーなのね?
この娘、ボケ殺しかもしれない……





翌日。

「息災だったか!」

「えぇ、そちらもお変わりないようで」

ギルドの入り口でムシャモンと再会した。
しかし、なんとも時代劇じみた挨拶だ。
前はこんな人だったか?

「猫の御仁に連絡をもらったときは、なにごとかと思ったが」

「すみません、うちの愚猫が無理を言いまして」

なんだか申し訳なくなった。
しかし、今回のムシャモンの日当はどうなるのか?
まぁそれはどうにでもなるか。
問題は……

「猫の御仁によると、ギルド前で助っ人と待ち合わせて行ってほしいとのことだが」

「よぉー、揃ってるなぁ!」

どうやら助っ人が来たようだ。
一体誰だろう。

「また会ったなぁ、魔法使いのガキィ!!」

「ひっ、あ、あああああああああ」

頭から足先まで一気に体温が奪われ、脱力する。
立っていられず尻餅をついて、痛がる感覚さえ消失してしまう。

「ったく、この前のは冗談だっつの。もう銃口向けたりしねぇから」

「ほ、ほほほほほほんとうですか!?」

落ち着きたくても落ち着けない俺。
向こうから手を差し出してきた。

「ほら、仲直りの握手だ。あー……握りつぶしたりしねぇよ」

ためらいはあったが、その手を握り返した。
しなかったら殺されるかもしれない。
ついでに尻餅をついていた体制から起こされると、ウィッチモンの様子が何か変だった。
眉間に皺をよせて、アスタモンを見ている。

「えーと、初めまして?」

なぜ疑問系なんだ。

「あぁ初めましてだ、魔法使いの嬢ちゃん」

2人が握手を交わすと、アスタモンは口元に人差し指を立てて、しーっのポーズをとる。
ウィッチモンは一瞬きょとんとしたようだが、すぐにうなずいて、薄く笑みを浮かべる。
あやしい……

「どうしたの?」

俺はウィッチモンの肘をつついて聞いてみた。

「いえいえ、今日は退屈しそうにないなってだけです」

営業スマイル的な顔で誤魔化された。
疑惑は深まるばかりだ。
とにかく出発することにした。
ムシャモンはこの前よりもテンションが高くなっていた。

「まさかまさか、ダークエリアの貴公子殿と肩を並べる日がこようとは!」

「大げさ。俺はただの不良だ。好き放題暴れていいときに暴れている内に変な通り名が付いちまったんだ」

謙遜しているアスタモン。
俺が初めて会ったときと雰囲気が異なる。
暇さえあれば、ブラックジョークでからかって来たり、不良番長的に人をアゴで使ってきたりしそうなタイプだ。
ムシャモンとまともな会話をしているのが信じられない。
まさか別人なんて……いや、俺のことは覚えていたし、それはないな。

「大丈夫ですか? 顔色があまり良くないようですが」

「大丈夫だよ。ところで、ホウキは使わないの?」

ウィッチモンが気にかけてくれるのは嬉しいが、彼女はこれが仕事なのだ。
それを考えると心境複雑なので話題を変えることにした。

「あれは急いでいるときか戦闘時のみ使っているんです。魔力消費が大きいんですよねぇ

そういえば、ソーサリモン師匠から魔力量を上げる努力をするよう言われてたっけ?
今日寝る前にはやっておこう。
その前に、魔法使えるようにしなきゃだった。





森に着いた。
もちろん、ノンストップで進んでいく。

「今回で3回目になるが、経験上、やはり不気味なものだな。」

ムシャモンが少し震えている。
この場合、武者ぶるいというよりは、寒気が勝っているように見える。
俺だってそうだ。
トラウマの場所に、トラウマを植えつけてきたデジモンと一緒に来ているわけだから、下手すりゃ精神崩壊起こす案件だぞ。
森は今日の天気が曇りということもあって薄暗い。

「あ、そういや言ってなかったなぁ、あの木の十闘士、俺がぶっ倒したんだ」

「なんと!?」

「あぁ〜……なんとなくそんな気がしてた」

アスタモンの告白に、ムシャモンと俺とで違うリアクションをした。

「さすが、貴公子殿は腕が立ちますな。是非、軽く手合わせいただきたい!」

ムシャモンさん、それは怖いもの知らずにも程があるよ。
いや、ここまで来て、何の関係もないはずのアスタモンが一緒に来るわけないじゃん。
強そうだし、全然嘘ついている感じもないし……信じなかったら殺されるかもしれないし。
俺ヘタレ。
そろそろ例の巨木のある開けた場所に出た。

「っと、ツカサぁ、お前は巨木の近くにいろ! ムシャモンはそのまま動くんじゃねぇぞ!!」

「え? あ、はい!!」

「一体何事……なっ!?」

ムシャモンが驚愕の表情を浮かべる。
そりゃそうだ、アスタモンが銃口を向けているからだ。

「一体、どういう」

「死にたくなきゃ動くな……よっと!」

アスタモンが持つ重火器はマシンガンタイプだ。
一度、トリガーを引けばオートで何十発と弾丸が飛び出す。
しかし今回はマニュアルで撃ったのか2、3発をムシャモンの背後へ飛び出したようだ。
同時に、茂みから2体の黒い小柄な何かが飛び出してきた。
この流れでデジモンなのは明確だが……
アスタモンはマシンガンを構えたまま、そのデジモンと間合いをとる。

「へっ、暴れられるなら歓迎するぜぇ」

俺は指示どおり巨木の近くまで来る。
ウィッチモンも付いてきた。

「いきなり戦闘なんですね」

「どんだけ物騒なんだ」

足が震えている。
こいつはどうにもならん。
茂みから現れたのは黒いアグモンとガブモンだった。
どちらも成長期。
アグモンはを恐竜をデフォルメしたような見た目で、ガブモンはアグモンに毛皮をかぶせたような1本角のデジモンだ。
見るのは初めてだが俺でもわかる。
あれは普通じゃない。
だって、目が真っ赤に光っているのだ。
あれは大体何かに操られているか、幽鬼的な存在と相場が決まっている。
もちろん、2次元設定の話だ。
……そういや今回、ブチがいないから、その手のボケが飛び出さない。
つまり、セルフボケツッコミになるんだな。

「貴公子殿、これはなんと言えばよいやら」

「何も考えずに戦え、死にたくなけりゃなぁ」

アスタモンは相手が成長期だからと油断することなく、マシンガンで弾丸をばら撒いた。
しかし、読まれていたのか、2体の黒いデジモンたちはすばやく回避し、木の上を跳び回り、火炎をはいてきた。
銃身や刀剣で跳ね返すアスタモンとムシャモン。

「むぅ……どちらも成長期のはずだが、なんたる威力!」

「ちっ、面倒くせぇ。思いっきりやらせてもらうぜぇ」

アスタモンは地面を蹴って、アグモンたちのいる木に着地した。
マシンガンを捨てて、かく乱するように周囲の木に飛び移る。
2体の黒いデジモンはそれに釣られて、動きながら攻撃を再開する。

「今だっ、ちえすとぉおおおおおおお!!!!」

アグモンが1本の枝に着地した瞬間、ムシャモンが勢いよく飛び出し、両断する。
1本の枝のみに狙いを定めて待っていたのだ。

「むっ、これは……」

アグモンは消滅したが、ムシャモンは釈然としない様子で、愛刀の刀身をにらめつけた。
アスタモンは残るガブモンと対峙した。

「なんだよ、言いたいことがあるなら遠慮なく言ってみろよ。故人いわく、口に出さざるは石のごとしってな!」

違ったか?とアゴに手をあて、ガブモンに背中を見せる形で視線をそらした。

「ウガァアアアア」

その隙を逃さなかったのか、ガブモンが飛び掛ってきた。

「まっ、どうでもいい……かっと!」

振り向きざまにハイキックを放ち、ガブモンに直撃、背後の木に強く叩きつけられ消滅した。

「天の……おっと、これ以上喋るとボロが出らぁな」

鼻で笑いながら、巨木の根元に視線を移した。
視線の先は……俺? なにか?
そういや、今の攻撃は格好よかったが、う〜ん、どこかで見たような技だなぁ。
俺のツッコミ魂がワナワナしている。
アスタモンとムシャモンがこちらにやって来た。

「ったく、妙なやつらだと思ったが、大したことなかったな。どうしたムシャモン?」

神妙な顔をしたムシャモン。

「刀に違和感がありましてな。斬った感覚がなかったもので」

アスタモンも気持ちの悪さを感じたのか、頭をかいた。

「そういや、ガブモンの方も木に激突する時の振動っつーのか?あれ無かったな」

となれば、やはりあれは幽鬼の類になるのかな?
でもデジモンの幽霊っているのか?
ゴースト型のデジモンがいるのは噂で聞いたことがあったけど……
まぁ考えていても仕方ない。

「ところで、今日はどういう調査を?」

目的も手段もはっきりと聞いていなかった。
一度、調査団が確認しているなら、何を確認するというのか。

「あぁそれな、俺たちがここに来たらどうなるかって調査だ。ビンゴってやつな」

アスタモンは俺とウィッチモンが身を寄せていた巨木にミドルキックを放った。
折れはしなかったが、鳩時計の時報のような音が鳴って、巨木の内側から開いた扉から何かが飛び出した。

「うわわっと……いきなりなんなのさ! って、アスタモンかよぉ」

子供のような声と共に、木製のカラクリ人形みたいなデジモンが出てきた。

「ふん、てめぇあれだけ騒がしくしてやったのに、顔のぞかせるくらいしろよ」

「うるさいな、僕は今忙しいんだ。こいつを今日中に完成させるんだ!」

手に持っていたのは、手の平サイズの立方体で1面1面が違う色になっている物体だった。
うん、間違うことなきルービックキューブだ。
デジタルワールドにもあるんだなぁ。

「ピノッキモン、お前まだ完成させてなかったのかよ!? どんだけ時間かけてんだよ。そら貸してみな」

ピノッキモンと呼ばれたデジモンからキューブを奪い取ったアスタモンは、手早くキューブを数回回転させて、投げて返す。

「ほらよ」

「あああああ、なんでやっちゃうんだよ!? あと少しだったのに」

アスタモンは名人のように速攻で完成させてしまったようだ。
このデジモン、一体何者なんだ!?

「うるせぇ、あと少しってレベルじゃねぇよあんなの! それよりどうだった?」

「ううう……あぁ、こっちで観測できなかった、これで満足?」

恨めしい目線をアスタモンに送るピノッキモン。
俺とウィッチモンはきっと置いてけぼり。
ムシャモンは未ださっきのアグモンの件が気がかりらしく、一人でぶつぶつとぼやいている。怖い。

「やっぱ“ゴースト”かぁ、うっし、手間は省けた。一度戻る……」

アスタモンの声が途切れる。
見ると、森の奥をにらめつけている。

「やはり終わってはおらぬようだな」

ムシャモンは刀を構えて、並び立った。
俺はすぐに巨木にしがみついた。

「し、知らないからな。僕は何も知らないからな!!」

ピノッキモンは木の中に帰っていった。
取っ手もない扉なので、外から開けることかなわず。
まぁ中が安全とは限らないんだけどね。

「風の流れが変わりましたね……」

ウィッチモンが周囲を見回しながら言う。
何のことかわかるはずもない。
気配とか殺気とか第6感的なものはないし、攻撃を防ぐ魔法も使えない。
せめて大きめの板でも持ってくればまだマシだったかもしれない。
いやいや、ムシャモンみたいな腕ならそれも無意味なんだろう。
奥の薮からまた2体のデジモンが出てきた。
やはり先ほどの黒いアグモンとガブモンだ。



つづく

ID.5000
 
■投稿者:tonakai 
■投稿日:2018/06/02(土) 19:04


転生したおっさんは元飼い猫とデジモンやっています1−4
「死んだふりか、死んだとこっちが勝手に思い込んだか」

「後者でありましょうな、別個体の可能性もぬぐえませぬが」

刹那、2体の黒いデジモンの周囲が青い渦に発生する。

「まずい! ムシャモン、遠慮するな、全力でたたっ斬れ!!!」

「承知っ!!」

アスタモンが焦り、ムシャモンが指示どおり飛び掛る。

「切捨て……御免っ!!!」

ムシャモンの必殺剣がうなる。
しかし、

「なんとぉぉぉおおおおお!!」

斬りつけた瞬間、弾き飛ばされた。

「っの野郎がぁ!!」

アスタモンがマシンガンをフルオートで発射する。
しかし、弾丸は見えない壁に阻まれるようにそれ以上は進まず、力なくバラバラと地面に落ちていく。

「くっそ、あいつら進化するぞ! ツカサぁ、ウィッチモンと逃げろ! てめぇをかばって戦える相手じゃねぇ!!

「あ、えっと、はひぃ!!」

情けない声をあげてしまった。
ウィッチモンは状況を把握したのか、ホウキを召喚すると、俺に乗るように支持してきた。

「しっかり捕まってくださいね、全速力は久しぶりなんで」

女の子にしがみつくなんて、元おっさんながら恥ずかしい。
やわらかい体を堪能する余裕もなく、俺はその場を離脱した。
一体なにが起ころうというのか。





ツカサたちが離脱してすぐに、黒いデジモンたちを囲む渦が消失して新たな姿をしたデジモンが現れる。
それはとにかく真っ黒だった。
上半身は黒いマント、というよりローブで覆われている。
そこから覗かせている両腕は獣のような顔をしている。
右手は重火器、左手は折れた剣、そして、小枝のような腰と足。
こまかな包帯のようなもので補強されているようにも見え、疲弊しているように見えるが、それがかえって不気味さを演出していた。


「お、オメガモンだとぉ!!!」

「そ、それは確かロイヤルナイツのデジモンでは」

「少し違うな。ズワルトにも近いが……中二病に感染してんじゃねぇよってか」

「中二?それはどういう」

「……感染しているのは俺だった。忘れてくれ」

アスタモンは、頭を横に振って、気持ちを切り替える。
2体と対峙する黒いオメガモンは“死神”という言葉がしっくりくる。
ただそこにいるだけで強烈な圧があり、空気も凍り付いている。
アスタモンはジャケットの内ポケットから何かを取り出した。

「ムシャモン、こいつは切り札にとっておきたかったが、温存しておく理由がなくなった」

ムシャモンに投げて寄こしたものは、多角形で、中央にディスプレイと操作ボタンがついたアイテムだった。

「もしや……伝説のデジヴァイス!?」

「レプリカの使い捨てだ。1度だけ限界突破の進化ができる。俺はわけあって使えねぇ。あんたが使ってくれ。効果は1時間ってとこだ」

「私が進化を……」

「迷ってる時間はねぇぞ、そいつを掲げて進化するイメージを浮かべるだけでいい」

「承知」

ムシャモンはデジヴァイスを掲げる。
全身が粒子化し、新たなシルエットに構築され、それは顕現する。
それは武人の姿をしたデジモン。
しかし、ムシャモン時の赤主体ではなく、黒主体の鎧。
顔は仮面で覆われている。
抜き身だった太刀はさらに巨大化し、強い力により鞘に封印されていた。

「はっ、“タクティモン”じゃねぇか。喜べよ、死に物狂いで強くなりゃそいつがお前の未来の姿ってわけだぁ」

「なんと……いや、今は感動している時も惜しい。行きましょう!!」

2体は黒いオメガモン、オメガモンズワルトDに向かっていった。





俺は、ウィッチモンのおかげで、森の外に出ることができた。
敵からの攻撃は一度も受けていないし、高速飛行による木や地面への激突は免れた。
自動二輪にでも乗ったことがあれば、きっとそれに近い感じなのだろう。

「ありがとね、ウィッチモン」

「いえ、それよりあの黒いデジモンたちですが……」

ウィッチモンは寒気を感じたかのように、自身の肩を抱く。

「あれはデジモンじゃないです。データの残滓、いわゆる幽霊が生前の姿で見えたりすることは稀にではありますが、確認されたことはあります。しかし、あそこまではっきりと見えて、攻撃までしてくるというのは前例がありません」

「やっぱり君たちが調査している件と関係が?」

「はい、通常ではありえない現象という点ではそうです。やはり、私も戻って見届けなければ……」

「駄目だ!」

咄嗟にウィッチモンの手をとった。
鋭い爪の生えた手は少し怖かったが、その時に迷いはなかった。

「俺はこの世界のことも、デジモンのことも、ほとんど知らない。でもあれは本能的にわかる。やばいやつだ。アスタモンやムシャモンは強いデジモンだけど、正直、勝てるかわからない! そんなところに君を行かせるわけにはいかない!!」

自然と握る手も強くなる。
大声を出す俺が珍しいのか、ウィッチモンは目を大きく見開いて数回瞬きした。
なんかブチに似ている。

「あ、えっと……仕事熱心なのはいいけど、命をかけるまでのものなのかな? 俺はその……仕事に熱心過ぎて力尽きた奴を見たことあるんだ。そいつ、口癖が栄養ドリンクが恋人! 72時間働けるぜぇ〜止めてみな!」

ウィッチモンに見せつけるように、茶色の小瓶を取り出して苦笑い。
今語ったことは事実であり、自分のことです。

「え、あれ? なんでそれを……」

ウィッチモンがポケットをまさぐって、慌てている。
この小瓶は、さっきホウキに乗せてもらったときに、腰のあたりの感触からもしかしてと思って拝借しました。
今話していた栄養ドリンクの類でしょう。
手癖が悪いなんて言われたことないけど、今回は文句言えないな。

「やっぱりそうなんだ。ラベルの文字が読めないから、魔法のアイテムとも思ったけど……とにかく、これの服用は禁止だから!」

叩き割ろうと思ったそのとき、急に周囲の空気が変わった。
大きな冷蔵庫の中に入った気分。
空が急に暗くなって、紫色の霧のようなものが床に漂っている。

「え?え? なんですか?」

「なんか……ヤベーイ……?」

言ってる場合じゃない。

「ゥゥゥゥゥゥ」

低いうなり声みたいものが聞こえてきた。

「キッヒヒヒヒヒヒ」

奇怪な笑い声が聞こえてきた。

「ヒャヒャヒャヒャヒャ」

「キシシシシシ」

どうやら複数いるようだ。
狭い空間にいるかのように反響している。
どうしたんだ、確かに森の外にいたはずだ。
森も消えているし、空がどこまでも黒い。
刹那、地面から何かが出てきた。
声の数のとおりなのか、複数の人型。
歩いてもいないのに、左右にゆらゆらと揺れている。
全身が包帯に巻かれているところから見ると、エジプトのミイラのようだ。
包帯に隙間から伺える目と肌の色がグロテスク。
松葉杖のようにもたれかかっている黒光りするものは重火器だろうか。

「ま、マミーモンです! でもこのあたりにはいるなんて聞いていないし、あんなにたくさんいるなんて」

「幽霊のデジモンを見た後に、なんともタイミング良く現われるなぁ……」

「とにかく、ツカサさんは逃げてください。私なら時間かせぎくらいできます」

ウィッチモンはホウキの先を向けてマミーモンたちと対峙する。

「ダメだ。ここは俺がやる。大体こういうのは、どこまででも追いかけられるのが相場だ」

俺は、腰に引っ掛けておいたイナズマを模した杖を取り出す。
いや、これもしかして太陽なのかな?
自分(ウィザーモン)のことも良くわかっていないのは情けない話だ。
ダメダメだ。

「ツカサさんは修行中なんですよね? だったら」

「女の子に守ってもらうほど、俺も落ちぶれちゃいないさ。さっきの前言撤回になるけど、これ使わせてもらうよ」

ウィッチモンから没収した栄養ドリンクの小瓶の蓋を抜いた。
プラスチックの回す方式の蓋ではなく、どちらかというとワインボトルのコルク栓みたいな感じだ。
一気に口に流し込む。味は少し辛め。
栄養ドリンクと同じ効能であれば、足の震えくらいは抑えられるはずだ。
あれって一種の興奮剤だからね。
大丈夫、俺ならやれるさ。
ソーサリモン師匠は言っていた。
まずは自分を信じること。
デジモンは自身の特技については余程のことがない限りは特訓しなくても使えるのだそうだ。
経験次第で威力については個体差があるらしいけど。

「えっと、その、確かにそれを飲めば色々と戦闘では恩恵を受けられはしますが、魔法が使えるようになるとは思えませんけど」

「大丈夫、絶対なんとかなる! 俺は俺を信じる!」

不思議だ。
あのドリンクのせいなのか、今以上にやばい状況に立ち会ったせいで感覚が麻痺したのか。
予想どおり足の震えは消えているし、なんだか普通に戦えそうだ。
戦闘経験は皆無です。
フラグかな?
でもそれは自分で気づいた時点で消滅するはずだ。
根拠はないが、俺の信条だ。





デジモンは環境に応じて力を発揮する生き物だという。
フィールド補正ってやつだ。
水が得意なデジモンは海や川、熱いのが得意なデジモンは昼間の砂漠や活火山といった場所で本領発揮できる。
ウィザーモンが補正を受けられるのは……暗黒、墓地、湿地、亜空間! ここなら条件3つくらいは当てはまるだろう。
ドリンクのおかげか、本当にいつもより調子が良い。
怖くない。
体中に力が集まっている感じもする。
その力を杖に集中させる。
魔法の修行で最初に言われたのはイメージトレーニングだった。
次に雷雲の発生について。
一番簡単なのは、嵐の日に外で使用する。
あまりにも限定的なので、それは却下。
あとは呪文だ。とは言え、決まった文言はないし、極端な話、声に出す必要もない。
攻撃のために雷雲を発生させることは、ウィザーモンなら容易なのだ。
ヒーローがわざわざポーズをとって変身するのも、きっと同じ理論なはずだ。
自分に暗示をかけ、力を最大限に使えるようにする。
よし、これで準備は整った。





マミーモンは未だ笑い声をあげて、不気味に立っている。
あ、攻撃の構えをしてきた。
松葉杖にしている銃器をこちらにむけてきた。
俺はマミーモンから目を離さずに、杖を掲げて放つ。

「出でよ雷雲、奔れ稲妻、サンダァァァァァァァァァクラウドォォォォォォォ!!!!!!」

すごい音がした。雷が杖に落ちてきた。
杖の先から稲妻が拡散していく。
それらはマミーモンたちに向かって走る。
一瞬だ。
当たった瞬間、消し炭のごとく消滅していった。
マミーモンはどんどん床から生えてきた。
その度に俺が狙いを定めるように視線を送ると、面白いように当たっていった。
杖に落ちてきた雷はエネルギーを補充するように数回に分けて落ちてくる。

「まだまだぁぁぁ!!!」

マミーモンの出現スピードが落ちてきた。
そろそろ打ち止めか。
今まで5体くらいは同時に出現していたが、今では1体だけだ。

「これで、最期だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

稲妻は正確にマミーモンを切り裂いた。
俺の意識はそこで途切れた。





「初めてにしては良かったよ。いやいや合格点だ。おめでとう!」

まいどお馴染み、ソーサリモン師匠の睡眠学習空間。
俺は釈然としていなかった。
達成感はあった。
嬉しい気持ちにもなった。
魔法が使えた!すげぇ!ただのおっさんが魔法使いになった!
初めて戦いの中で、自分の技により勝利を収めた。
いや、戦い?勝利? 違うな。
下手な演技ですね、師匠。あのマミーモン達はあなたが用意したものでしょう。
見せかけだけの張りぼてだ。
白い魔法使いは人間界でもデジモン界でも自作自演が好きらしい。
目の前の師匠は俺にだって見透かせるくらい下手っぴだが。

「ははははは! 君みたいな勘の鋭い弟子は……好きだよ!! 
ははははは!」

嫌いだよって言われなくて良かった。
某キメラの研究者を思い出したよ。
それに、師匠と敵対したいわけじゃない。

「いつ気づいたのかな?」

割と最初から。ウィッチモンがそれほど焦っていなかったことと、タイミングが良すぎたところ。安全を確保した上で、俺をその気にさせようとしたんでしょう?

「いやはや、まったく、とんだ名探偵がいたもんだ」

この師匠、ちょいちょいネタぶつけてくるな。まさか同郷じゃないよな?

「ん? ウィザーモンの源流はウィッチェルニーだからあながち間違いじゃないよ?」

いやそういうことじゃなくて!





いつもの天井だ。
つまり我が家だ。
小鳥のチュンチュンと鳴いている。朝か。
……小鳥!? デジモンじゃなくて? 小鳥のデジモンかな?あはは。


「ツカサ! 良かったにゃ〜!!」

「……マミーテイルモンが現れた。攻撃 魔法 アイテム 逃げる」

「にゃ?」

「魔法 ⇒ ファイア!」

「にゃにゃにゃ〜〜〜〜〜!!!!」

状況を説明しておこう。
目が覚めた。
視界に白いのがあわられた。
よく見ると、包帯巻き巻きで、仕込んでいると思われる額当てから布を垂らしたスタイル。
頭頂部から髪の毛がはみ出ている。
幕末の燃え殺されかけた人斬りみたいだ。
覚えたばかりの魔法を応用した静電気っぽいやつを発生させてみた。
布から発火して燃え広がろうとしたところで、猫っぽい言葉を喋る生き物は焦って流し場まで飛んでいった。

「あはは……お元気そうで何よりです」

ウィッチモンは苦笑した。
目覚めてすぐ見るなら彼女の顔がいいに決まっている。

「うん、色々と迷惑かけてごめんな」

「いえいえ。あの後、アスタモンさんとムシャモンさんは戻ってこられて、村に戻ってきた段階で解散になりました。あ、ムシャモンさんが抱えてくださったんですよ」

ムシャモンには今度会ったらお礼を言わねば。
それにしても、あの2体も無事だったか。
良かった良かった……っていいのか!?

「ブチィ〜! ブチはおるかぁ!!」

「ここにおりますにゃ、親方様! って、なんで戦国にゃ?」

ノリで言ってみただけだ。
包帯猫デジモンから変身解除した我が忠義の猫が首をかしげる。
その仕草、可愛い。
俺も焼きが回ったぜ、ここはあざといというのが正解。

「ツカサ酷いにゃ〜、あやうく本当に京の都を焼き尽くそうとしてた人斬りになるところだったにゃ〜!」

はいはい、細かい元ネタ説明サンクスです。

「酷いのはそっちだろ!? おかげで魔法が使えるようになりました。どうもありがとうございます!!」

黒猫に中指の第二間接でグリグリやってやった。
これは動物虐待ではない。教育的指導だ。
出るところに出るつもりはない。

「にゃにゃにゃ〜、僕は最凶の5歳児じゃないにゃ! は〜な〜す〜にゃ〜」

「大体なんだったんだよ今回のは!? ひたすら危ない目にしか遭ってないぞ!!」

マシンガンをつきつける同行人(アスタモン)、正体不明の幽霊デジモンとの遭遇(黒いアグモンとガブモン)、魔力切れによる失神。
最後のは少し違うが。

「お、落ち着くにゃ! 説明するから座らせてほしいにゃ!」

ぐりぐりの宙吊りから開放されると、ブチはメガネと差し棒を取り出して話し始めた。
教師スタイルであることは無視だ。

「まずはデーモンのことにゃ」

ネタを色々ぶっこんできたので要約する。
デーモンは山岳エリアの管理者。
猫使いの荒いやつとのことだが、これ以上はブチの私見が入るので割愛。

ブチはそんな管理者と契約している。
契約社員的なものを想像したが、どちらかというと、召喚獣に近いとのこと。
そんなブチは、俺が転生してくるずっと前から、この村の管理の実行部隊(とは言え1匹だけ)らしい。
ブチのデジモンとしての年齢が気になったが話が反れるから無視だ。
村周辺が対象となる厄介なギルドからの依頼は基本請けることになっており、盗賊団の討伐で、ブチが参加するのは必然だったようだ。
そして、ペタルドラモンの件があって、後日、調査隊を派遣することに。
しかし、難航しているため、三度行くことになったが、ブチは別件でデーモン呼ばれて、今回の調査に同行できず。



アスタモンについて。
彼は山岳エリアの人手不足のため臨時に派遣された実行要員らしい。
普段は別エリアで、ブチみたいな仕事をしている。
戦闘特化の狂戦士の気があるため、たまに暴走するが……うん、それは俺が身をもって知っている。
でも、2回目に会ったときには随分と良いデジモンになっていた気がする。
未だ怖いけど。



蛇足になるが、ムシャモンは盗賊討伐依頼が出された直前にこの村に来ている旅人であるため、デーモンたちとは無関係だが、現地にいたことと、腕が立つことが買われ、2度の調査参加を依頼されたということだ。





「ブチお前、公務員だったのか!? 将来安泰だな!」

「退職金も年金も約束されていない契約に何の意味があるにゃ! きつい、危ない、給料低いの『3K』にゃ!」

現代サラリーマンの闇を見ているようだ。

「でも、ちゃんと仕事しているブチはえらいと思うよ?」

「ほ、褒めても、お肉料理しかでないにゃ」

それは嫌だな。
お肉の漬け物はクセが強いんだ。

「はぁーい、じゃあ朝食にしましょう。ツカサさんは夕食も抜いてますから、たくさん食べてくださいね!」

ウィッチモンがちゃぶ台いっぱいに朝食を並べた。
なんとメニューはサンドウィッチ!!……ダジャレじゃないよね?
いやいや、それにしてもだ。

「パンですか!? ウィッチェルニーはパンもあるんですか!」

「はい、むしろ主食はパンです」

いいなぁ、ウィッチェルニーに移住したい。

「ツカサ、誤解してるにゃ。単に山岳エリアにお米とかパンの文化がないだけにゃ」

うん、とりあえず山岳エリアを出たくなったよ。
引越しはやっぱり考えておかなきゃ。
とにもかくにも腹が減っている。
なんといっても魔力が空になって倒れたくらいだ。
しっかり栄養補給をしておかねば。
サンドイッチの種類は、お肉スライス&葉物野菜、キュウリ&トマト、いちごジャムの3種。
材料が限られるからこんなものだろう。
お袋が作ってくれたものなら、あとはポテトサラダ、シーチキン&レタス、たまに生クリーム&いちごとか、卵&レーズン!……そういや転生してから卵は食べたことがない、デジモンは卵から産まれるから共食いになるからか?

「ご馳走様でした」

「ゴチにゃ! まぁまぁだったにゃ」

おっブチのやつ、ウィッチモンにちょっとデレを見せるようになったな。
嬉しい限りだが、キャラ変えに忙しいやつだ。





朝食後にコーヒーを飲んでまったりしていた。
……コーヒー!?
ウィッチェルニー、ますます興味深い。
ウィッチモンが来てから、食事が豊かになった気がする。
その分、日々の危険度が増したのも否めないが。
そういえば、

「ウィッチモン、昨日もらった小瓶の中身のことだけど」

「あぁ、あれですね。ちょっと仕事が立て込んでいるときに飲むと頑張れるんですよねぇ。あれ、私が調合したオリジナルなんです!」

彼女は自慢気に胸をそらす。
俺は慌てて視線をそらす。
やはり効能は栄養ドリンクと同じらしい。
しかし、俺はなんとなく気づいていたことがある。

「中身は度数の高いアルコールだね?」

ウィッチモンはそれを聞くと、目を大きく見開いてまばたきを数回する。
この娘の癖だということはよーくわかった。

「すごいですね、さすがウィザーモンです! そうなんですよ。その場で酔っぱらったり、2日酔いになったりしないように度数と分量にこだわってるんです」

あ、なんか喋りだして止まらなくなっちゃった感じだぞ。
小瓶を数本取り出したり、研究メモを取り出して語っている。
うんうん、もうわかったから! 難しい用語を出されてもわかんないから!
ブチも眠そうな目をしながら、目の前の小瓶をフリフリしている。
あ、蓋開けて匂いを嗅ぎ出したぞ……ちょ、一気に飲んだ!?

「ぷふぁ〜〜〜〜〜……あれぇ〜、地面が〜天井が〜ぐるぐるにゃ〜〜〜〜〜」

黒い肌が真っ赤になって、くるくるとトリプルアクセル(3回転半)をかましてひっくり返った。
こいつ下戸か。
いくら分量にこだわっていても、弱い人にはひと舐めでもダメだっていうしな。
ちなみに、生前の俺は度数が強い酒には強く、度数の弱いビールや甘いチューハイはすぐに悪酔いしていた。
さらに言えば、強い酒を飲むほど頭が冴え渡って、会話が円滑になったなんてこともある。
許されるはずもないが、仕事で飲んだら最強だったかもしれない。
足の振るえが止まって、いっちょ前に魔法が出せたのはその特性のおかげかもしれない。

「名前は『デジビタンG』です!! ……あれ、猫さーん、大丈夫ですかぁ〜?」

ウィッチモンがようやくブチの様子に気づいて水で濡らしたタオルをデコにかけた。
猫だけに、どこまでがデコなのかは知らない。
俺は即座に乗せられた濡れタオルをさらに広げてやった。
ご臨終みたいになった。自業自得だ。
ちなみに、相方は仏になったので、ドリンクのネーミングには突っ込まないことにする。



つづく

ID.5001
 
■投稿者:tonakai 
■投稿日:2018/06/02(土) 19:18


キャラ紹介と今作について
<キャラ紹介>

◆ツカサ
 元アラフォーのおっさん。
ウィザーモンに転生して、元飼い猫のブチと暮らしている。
ビビリで少々オタク。
度数の高いお酒とランニングは得意だが、それ以外の体力・筋力仕事は苦手。
転生しても最初から成熟期だった以外のチート能力はない。


◆ブチ
 ツカサが子供の頃に家で飼っていた猫(♂)が転生したブラックテイル
モン。
名づけ親はツカサの祖母。黒猫なのに“ブチ”である理由はツカサも知らない。
オタクネタに精通しているが、収集手段は謎。山岳エリアの管理実働員としてデーモンにこき使われているため、彼を嫌っている。
生前から他人が家に入ることを嫌うことから、居候することになったウィッチモンを良く思っていない。
兄弟より一つ多く変身できるらしいが……


◆ウィッチモン
 ウィチェルニーから調査のためにやって来た“可愛い女の子”。
ツカサとブチの家に居候中。
栄養ドリンク(自家製)を常用するほどの働きウーマンだが、家事レベルも高い。
攻撃魔法は得意ではなく、ホウキによる飛行も魔力消費が高いことからあまり使いたがらない。


◆デーモン
 ツカサたちが暮らす山岳エリアの管理者。
ブチと契約している猫使いの荒い仕事人だが、ブチが問題を起こそうとすると颯爽と現れるフットワークの軽い理想的な上司。


◆ムシャモン
 旅のデジモン。
成熟期ながら完全体とも張り合えるほどの実力をもつ。
姿に合わせてか、時代錯誤な言葉を使う。
豪快で人当たりの良いデジモン。
猫の御仁(ブチ)を高く評価している。


◆アスタモン
 山岳エリアの人員不足からデーモンに依頼されて別エリアからやってきた貴公子。
戦闘能力が非常に高い。
実はいい奴で、ツカサにトラウマを植えつけたことを密かに悔やんでいる。
彼もまたオタクネタを口走るが果たして……


◆ソーサリモン
 ウィッチェルニーの指導者的ポジション。
ペタルドラモンの一件でデジタルワールドの異常に気づき、ウィッチモンを派遣した。
ツカサに夢の中で語りかけ魔法を教えた。
オタクネタを使うことからツカサから同郷(元人間)と思われているが、彼の考え過ぎ。





<今作について>
2年以上放置気味の投稿物をさらに後回しにして、新作を投稿してしまいました。
しかし、この話についてはネタが自分の中でバブル状態なので、しばらくは続けて書き続けられそうです。ネタが尽きたら放置物に手を出していきます。

さて今作ですが、最近流行りの“異世界転生”の要素を取り入れてみました。
とは言え、前世での経験を生かして窮地を乗り越える要素はほぼ無いと思います。
いかにツカサがデジモンとして成長していくか、いかにブチに色んなネタを吐かせるか、いかに個性的なデジモンを登場させられるかに注力していく予定です。

ちなみに、放置物になっている『デジタライズ』シリーズの世界観そのままにしています。
若干の矛盾点はあるかもしれませんが、七大魔王が各エリアの管理者になっていたり、脇役のデジモンが登場するかもしれなかったりします。
お付き合いいただければ幸いです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

ID.5004
 
■投稿者:夏P(ナッピー)  HOME MAIL
■投稿日:2018/06/10(日) 17:03


頭空っぽの方がネタ詰め込める
 怒涛の如く乱発してくるネタを前にツッコミが追い付かねー。というわけで、遅くなってしまいましたが夏P(ナッピー)です。昨今流行りの異世界ものっていうより、多分ブチと喋れるようになっただけで人間界にいた頃と変わらなさそうだぞツカサ、おのれディケイド
 ウィッチモンはラブコメ要員だよなーそうだよなー。
 しかしこれ、ひょっとしてムシャモン以外全員元・人間だったりしそう……というか、アスタモンとウィッチモンは明らかに人または人間界の生き物な気がする。なんかノリがもやしツカサと近い。
 おっと、そしてペタルドラモン超強敵扱いで出てきたと思ったらまさかの噛ませ! 似合いすぎる! でもブチが♂ってことは進化先は……?


 実は続き物だということを読み終えてから気付きましたので、ここからの展開もお待ちしております。